せめて届かないだろうか
葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った…
片胸のない彼女と決めた暗証番号は、二人の誕生日を足した〇五一二。余命を告げられても笑って過ごした日々のあと、彼女が旅立って半年で届いた診断書の時刻の欄に、その暗…
私が小学生の時、野良猫が家に懐いて子猫を生んだ。メス一匹とオス三匹。 その内、オス二匹は病気や事故で死んだ。 生き残ったメスとオスには、アンとトラという名前を付…
急な坂をふうふう息を吐きながら登り、家族のお墓に着く。 風が強いんだ、今日は。 春の日差しに汗ばみながら枯れた花を除去して、生えた雑草を取り、墓石を綺麗に拭く。…
医学生だった頃、右の脚が重いと言った恋人の言葉を聞き流してしまった俺。遺された古いノートと最後の言葉に支えられて心臓外科医になった今、救急外来で同じ訴えを耳にす…
秩父の国道沿いのコンビニで深夜勤をしていた頃、午前三時に必ず猫の缶とコーヒーを買っていく人がいました。缶だけは決して袋に入れさせない理由と、仕事を辞めた四年後も…
諏訪の団地で二人の男の子を育てています。弟とは同じ小学校へ行けないと伝えた日、兄は部屋に籠り、三十分後に出てきて、たった一つの約束をさせました。その春から続いた…
私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。 家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。 ※ 私が…
糖尿病を患っていて、目が見えなかったばあちゃん。 一番家が近くて、よく遊びに来る私を随分可愛がってくれた。 思えば、小さい頃の記憶は、殆どばあちゃんと一緒に居た…
私には、兄が居ました。 三つ年上の兄は、妹思いの優しい兄でした。 子供の頃はよくドラクエ3を兄と一緒にやっていました(私は見ているだけでした)。 勇者が兄で、僧…
「沖縄に行かない?」 いきなり母が電話で聞いて来た。 当時は大学三年生で、就活で大変な時期だったため、 「忙しいから駄目」 と言ったのだが、母はなかなか諦めない…
いまいち仲が良くなかった父が、入院する前夜にワインを取り出し、 「まあいつまで入院するか分からないけど、一応、別れの杯だ」 なんて冗談めかして言ったんだ。 こん…
大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。 8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。 泥だらけになって遊びから帰って来ると、…
金融屋をやっていた三年前の夏、取り立てに行った大牟田の文化住宅に、五歳と三歳の兄妹だけが残されていました。裏庭の破れた金網の先にあったのは、小学校の池です。池の…
俺が結婚したのは20歳の頃だった。当時、妻は21歳。学生結婚だった。 二年ほど貧乏しながら幸せに暮らしていたのだが、ある時、妊娠が発覚。 俺は飛び上がるくらい嬉…