カテゴリー: ちょっと切ない話

胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。

忘れられない暗証番号

片胸のない彼女と決めた暗証番号は、二人の誕生日を足した〇五一二。余命を告げられても笑って過ごした日々のあと、彼女が旅立って半年で届いた診断書の時刻の欄に、その暗…

猫のアン

私が小学生の時、野良猫が家に懐いて子猫を生んだ。メス一匹とオス三匹。 その内、オス二匹は病気や事故で死んだ。 生き残ったメスとオスには、アンとトラという名前を付…

ろうそくの火と墓守

急な坂をふうふう息を吐きながら登り、家族のお墓に着く。 風が強いんだ、今日は。 春の日差しに汗ばみながら枯れた花を除去して、生えた雑草を取り、墓石を綺麗に拭く。…

恐かった父

私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。 家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。 ※ 私が…

ばあちゃんの封筒

糖尿病を患っていて、目が見えなかったばあちゃん。 一番家が近くて、よく遊びに来る私を随分可愛がってくれた。 思えば、小さい頃の記憶は、殆どばあちゃんと一緒に居た…

消えた冒険の書

私には、兄が居ました。 三つ年上の兄は、妹思いの優しい兄でした。 子供の頃はよくドラクエ3を兄と一緒にやっていました(私は見ているだけでした)。 勇者が兄で、僧…

母の唯一のワガママ

「沖縄に行かない?」 いきなり母が電話で聞いて来た。 当時は大学三年生で、就活で大変な時期だったため、 「忙しいから駄目」 と言ったのだが、母はなかなか諦めない…

ワイン好きの父

いまいち仲が良くなかった父が、入院する前夜にワインを取り出し、 「まあいつまで入院するか分からないけど、一応、別れの杯だ」 なんて冗談めかして言ったんだ。 こん…