子供時代の夏

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 心温まる話 | |

レトロなサイダー瓶(フリー写真)

大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。

8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。

泥だらけになって遊びから帰って来ると、まず玄関に入ったところで台所のお母さんから叫ばれる。

「ハイハイしてお風呂場行きなさーい!」

服を全部脱いでお風呂に入っている間に、着替え(薄い綿のワンピとパンツ)を出してもらう。

お風呂から出ると、お父さんがテレビを視ている。枝豆と汗かいた瓶ビールと、首を振っている扇風機。

食後にチューチューアイスを兄弟で半分こ。

テレビは『8時だョ!全員集合』派だった。

お父さんが蚊帳を八畳間に吊って、漫画本を抱えて入る。

さっと入らないと蚊が入るので、さながら忍者のように。

早々に漫画を読み終わってしまい、次のを取って来たいけどもう眠い。

電気を消すと網戸の外がほんのり明るい夏の夜で、蚊取り線香の先っちょが赤く光っている。

のそっとお父さんが入って来て、兄弟の向こう側に寝る。手を振ると振り返す。

大分経ってから扇風機が停められ、お母さんが自分の隣に入って来る。

そして、うちわを持って扇いでくれる。

お母さんの方が寝つきが良く、うちわがコトッと落ちる。

するとお父さんが起き上がってうちわを取り、扇いでくれる。

それが止まるのを、起きて見られたことは一度も無かった。

お父さんとお母さんが居た頃の夏。

兄弟とこの手の思い出話をしたことはまだ無い。泣いちゃうから。

じいちゃんとばあちゃんになったら、冷たい麦茶を飲みながら話してみたい。

あの時の夏は楽しかったね、と。

関連記事

花

未読のメッセージ

青春の嵐が吹き荒れる中学三年生の春、突然の母の病気の診断を受け入れることができませんでした。 試験と部活動に明け暮れる日々に追われ、未来への不安と金銭的な心配に頭がいっぱいでし…

手紙を差し出す女の子(フリー写真)

パパと呼ばれた日

俺が30歳の時、一つ年下の嫁を貰った。 今の俺達には、娘が三人と息子が一人居る。 長女は19歳、次女は17歳、三女が12歳。 長男は10歳。 こう言うと、 …

夕日と花を掴む手(フリー写真)

泣くな

ある日、教室へ行くと座席表が書いてあった。 私の席は廊下側の前から二番目。彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまった。 でも同じクラスで本当に良かった。 ※ クラスに馴染ん…

子供の寝顔(フリー写真)

お豆の煮方

交通安全週間のある日、母から二枚のプリントを渡されました。 そのプリントには交通事故についての注意などが書いてあり、その中には実際にあった話が書いてありました。 それは交通…

婚約指輪(フリー写真)

例外の入籍手続き

彼は肺がんで入院していて、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定も入れ、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態、彼はバツイチ、そして大分…

お味噌汁(フリー写真)

これで仲直りしよう

昨日の朝、女房と喧嘩した。と言うか酷いことをした。 原因は、夜更かしして寝不足だった俺の寝起き悪さのせいだった。 「仕事行くの嫌だよな」 と呟く俺。 そこで女房…

女性の後ろ姿

ずっと一緒だから

もう、あれから二年が経った。 当時の俺は、医学生だった。そして、かけがえのない彼女がいた。 世の中に、これ以上の女性はいない。本気でそう思えるほど、大切な存在だった。 …

ファミレス

兄妹の絆

ファミリーレストランでの仕事中、私の隣のテーブルに親子が座った。 お母さんは若作りした茶髪で、中学生くらいの息子と小学生の妹を連れていた。 初めはただの普通の家族だと思っ…

オフィス(フリー素材)

祖父の形をした幻

私の名前は中島洋二、会社員であり、幸せな家庭の父親です。 家族は妻と二人の子供、それから母親がいます。 しかし、私にとっての大切な家族の一人に、私の祖父がいます。 …

万年筆(フリー写真)

わすれられないおくりもの

生まれて初めて、万年筆をくれた人がいました。 私はまだ小学4年生で、使い方も知りませんでした。 万年筆をくれたので、その人のことを『万年筆さん』と呼びます。 万年筆…