せめて届かないだろうか

公開日: ちょっと切ない話 | 友情

田舎の風景(フリー写真)

葬式、行けなくてゴメン。

マジでゴメン。

行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。

工事用の岩の間に作った基地さ、まだあったぜ。

置いてたエ○本はパリパリになってたけどな。

あの頃はこんな青年誌でもエ○本だと思ってたんだな。ガキだわ。

んで、そのエ○本の奥にあった手紙の山。

『なんだ?』って思ったら、ラブレターだった。

そういやぁ二人して書いてたな。二人とも同じ人宛てにさ。

んでさ、まあ殆ど読めなかったけどさ、ある一行が俺の目に飛び込んで来たよ。

『もし、俺がダメだったらシューチと付き合ってよ。あいつすんげぇいい奴だから』

…バカじゃねぇの? お前。

何だよ。忘れてたよ。お前がこんなヤツだって事。

すんげぇいいヤツだって事。

離ればなれになっちまってから、ホント忘れてたよ。

そんで、俺がどれだけクソな人間か思い知らされたよ。

もうお前は帰って来ない。

今更、俺が何を言っても届かない。

死んだ時は分からなかった死の実感。

だけど…せめて届かないだろうか。

お前だって見てたんだろ? この板。

本当に、ゴメン。ゴメンなさい。

あとさ、久しぶりにチアキに連絡した。

あいつ…お前が死んだこと知らなかったよ。

一緒に謝りに行くから。お前の墓に。

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