彼女の導き

公開日: ちょっと切ない話 | 仕事 | 恋愛

彼女(フリー写真)

もう2年も前の話になる。

当時、俺は医学生だった。彼女も居た。

世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。

しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如として静脈血栓塞栓症でこの世を去った。

その時の自分は相当、精神不安定に陥っていたと思う。

葬式の時、彼女の母親が俺にこう告げた。

「あの子、亡くなる直前にあなた宛にこんな言葉を言ったわ…」

『○○君は優しいね。

私が死んだら相当落ち込むかもしれないけど、落ち込んじゃだめだよ。

ずっと一緒なんだから。

私のような人を沢山救ってね』

そして、そのまま眠るように亡くなったらしい。

その彼女の言葉を聞いた俺は、涙が溢れ出して来た。今までに無い涙の量だった。

彼女の最後の言葉が俺の事で、つまり俺の事が一番大切だったなんて思うと、余計に涙が溢れて来た。

俺はその時、亡き彼女に誓った。

お前の命は絶対に無駄にしない、と。

そして今現在、俺は心臓外科医を勤めている。

もうあんな悲しい結末は経験したくないからでもあり、彼女に誓ったからでもある。

時々彼女は、俺の夢の中に出て来て、とびっきりの笑顔を見せてくれる。

その最高の笑顔は、俺の活躍を祝福してくれる。

そして俺を立派な医師になるための道に導いてくれるのだ。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

バラの花束(フリー写真)

大きなバラの花束

接客を何年か担当してくれていた優秀な女性スタッフが、その店を辞めることになった。 店長は、一生懸命仕事をしてくれた彼女に何かお礼がしたかった。 いよいよ彼女の最後の出勤の日…

夫婦の手(フリー写真)

空席に座る子

旦那の上司の話です。亡くなったお子さんの話だそうです。 主人の上司のA課長は、病気で子供を失いました。 当時5歳。幼稚園で言えば、年中さんですね。 原因は判りません…

星空

天国でも携帯が

妹からの最後のメールを読んだ時、命の尊さと、失った者の残された悲しみがどれほど深いかを痛感しました。妹は白血病で苦しみ、わずか14歳でこの世を去りました。彼女が2歳半の時に病気が発覚…

天国(フリー素材)

天国のおかあちゃんへ

もう伝わらないのは解っているけど、生きている内に伝えられなかった事を今、伝えるね。 まずは長い闘病生活、お疲れ様。最後まで絶対に諦めなかったおかあちゃんの姿、格好良かったよ。 …

教室

見落とされた優しさ

私は昔から何事にも無関心で無愛想でした。友達は少なく、恋愛経験もほとんどありませんでした。偽りの笑顔やうそをついて生きる日々は、いじめの対象になることもありました。 中学1年の…

猫(フリー写真)

愛猫との別れ

私がまだ高校生の冬、家で飼っている猫が赤ちゃんを産みました。しかも電気毛布を敷いた私の布団で。 五匹も産んだのですが、次々と飼い主が決まり、とうとう一匹だけになりました。 …

タクシーの後部座席(フリー写真)

母の気持ち

実家に帰省して、また帰る時の事。 俺は母子家庭で仕送りを貰っている癖に、冗談めかしに帰りのタクシー代と電車賃を頂戴と母にせがんだ。 すると母は、 「何言ってんの!うち…

赤ちゃんの手

天国に持っていく思い出

「天国にどのシーンを持って行きたい?」と高校生の時、何気なく母に尋ねたことがあります。 「アンタが生まれた瞬間かな」と、母は即答しました。 私たち家族は決して裕福ではあり…

チューリップ(フリー写真)

立派なお義母さん

結婚当初は姑と上手く噛み合わず、会うと気疲れしていた。 意地悪されたりはしなかったけど、気さくでよく大声で笑う実母に比べ、足を悪くするまでずっと看護士として働いていた姑は喜怒哀楽…

夫婦(フリー写真)

幸せなことは何度でもある

結婚5年目に、ようやく待ちに待った子供が産まれた。 2年経って子供に障害があることが判明し、何もかもが嫌になって子供と死のうと思った。 そしたら旦那がメールが届いた。 ※…