彼女の導き

公開日: ちょっと切ない話 | 仕事 | 恋愛

彼女(フリー写真)

もう2年も前の話になる。

当時、俺は医学生だった。彼女も居た。

世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。

しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如として静脈血栓塞栓症でこの世を去った。

その時の自分は相当、精神不安定に陥っていたと思う。

葬式の時、彼女の母親が俺にこう告げた。

「あの子、亡くなる直前にあなた宛にこんな言葉を言ったわ…」

『○○君は優しいね。

私が死んだら相当落ち込むかもしれないけど、落ち込んじゃだめだよ。

ずっと一緒なんだから。

私のような人を沢山救ってね』

そして、そのまま眠るように亡くなったらしい。

その彼女の言葉を聞いた俺は、涙が溢れ出して来た。今までに無い涙の量だった。

彼女の最後の言葉が俺の事で、つまり俺の事が一番大切だったなんて思うと、余計に涙が溢れて来た。

俺はその時、亡き彼女に誓った。

お前の命は絶対に無駄にしない、と。

そして今現在、俺は心臓外科医を勤めている。

もうあんな悲しい結末は経験したくないからでもあり、彼女に誓ったからでもある。

時々彼女は、俺の夢の中に出て来て、とびっきりの笑顔を見せてくれる。

その最高の笑顔は、俺の活躍を祝福してくれる。

そして俺を立派な医師になるための道に導いてくれるのだ。

関連記事

鉛筆と参考書(フリー写真)

厳しい母

私の母はとても厳しい。 身の回りの事は全て自分でやらされていた。 勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。 定期テストで二番を取ると、 「二番は敗者の一番だ」…

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…

河川敷(フリー写真)

白猫のみーちゃん

私がまだ小学生の頃、可愛がっていた猫が亡くなりました。真っ白で、毛並みが綺麗な可愛い猫でした。 誰よりも私に懐いていて、何処に行くにも私の足元に絡み付きながら付いて回り、寝る時も…

母の手(フリー写真)

お母さんが居ないということ

先日、二十歳になった日の出来事です。 「一日でいいからうちに帰って来い」 東京に住む父にそう言われ、私は『就職活動中なのに…』と思いながら、しぶしぶ帰りました。 実…

コーヒー

父の献身

私の両親は小さな喫茶店を営んでいて、私はその一人娘です。父は中卒ですが、非常に真面目な人でした。 バブルが弾け景気が悪化すると、父は仕事の合間にお店を母に任せ、バイトを始めまし…

桜

再会と再出発

3年前、私は桜が開花し始める頃に自殺を考えていました。失恋、借金、会社の倒産と様々な問題が重なり、絶望していたのです。両親とも絶縁状態で、孤独を感じていました。 最後に何か美味…

手を握るカップル(フリー写真)

最期の時

俺だけしか泣けないかもしれませんが。 この間、仕事から帰ると妻が一人掛けの椅子に腰かけて眠っていました。 そんなはずは無いと解っていても、声を掛けられずにはいられませんで…

バラの花束(フリー写真)

大きなバラの花束

接客を何年か担当してくれていた優秀な女性スタッフが、その店を辞めることになった。 店長は、一生懸命仕事をしてくれた彼女に何かお礼がしたかった。 いよいよ彼女の最後の出勤の日…

ドーナツ(フリー写真)

ミスドの親子

日曜にミスドへ行った時の話。 若いお父さんと、3歳くらいの目がくりくりした可愛い男の子が席に着いた。 お父さんと私は背中合わせ。以下、肩越しに聞いた会話。 子「どーな…

教室(フリー写真)

先生がくれた宝物

私がその先生に出会ったのは中学一年生の夏でした。 先生は塾の英語の担当教師でした。 とても元気で、毎回楽しい授業をしてくれました。 そんな先生の事が私はとても大好き…