曲がったストローを持つ男の子
病院の売店で、毎週いちご牛乳とストロー二本を頼む八歳の男の子。曲がったストローを作る小さな手を見て、私は彼の母親を疑っていた。その理由を知ったのは、雨で品切れに…
続きを読む:曲がったストローを持つ男の子病院の売店で、毎週いちご牛乳とストロー二本を頼む八歳の男の子。曲がったストローを作る小さな手を見て、私は彼の母親を疑っていた。その理由を知ったのは、雨で品切れに…
続きを読む:曲がったストローを持つ男の子三月十一日の昼、窓口に来た老人は「夕方のチャイムを、最後まで鳴らしてくれ」とだけ言った。毎日四十八秒で止まるはずの音と、操作盤の付箋に残された「ボタンは離すな」…
続きを読む:夕方のチャイムは今日だけ長い検針票の裏に、志津子さんは毎月、鉛筆で返事をくれた。使用量が倍になった冬、二月の雨の午後に見たのは、満杯のまま抜かれていく湯と、指二本ぶんだけ開いた浴室の小窓だ…
続きを読む:検針票の裏に返事が来る家冷凍庫の容器には、入院した妻の丸い字で日付が書かれていた。十一月三日から一日に一つ、私は言われたとおり日付の順に食べた。十二月一日の朝、病室の白板に書かれた二文…
続きを読む:冷凍庫の容器は日付の先まで続く梅雨の晴れ間、祖母の家の納戸で、僕の名前が貼られた瓶が九本見つかった。祖母の梅干しは年ごとに塩の数字が減っていて、ノートには、僕が電話で言った一言への返事が、十…
続きを読む:祖母の梅干しは年ごとに薄くなる毎月第一土曜の十一時、時枝さんは左手の薬指だけを塗らずに帰っていく。サンプルのゼロ番が一枚ずつ減る理由を、ネイリストの私は一年七か月、取り違えていた。二名分で取…
続きを読む:左手の薬指だけ塗らない人水曜の午前三時十分、作業着の男は窓際の端の席に鮭のおにぎりをひとつ置いた。供え物だと思い込んだ僕は、三か月のあいだ、それを朝の廃棄袋へ入れ続けた。その席が誰のた…
続きを読む:窓際の端の席に鮭が置かれる駅の改札の猫は、降りてくる人の顔を見ない。見るのは足元だけだった。毎週木曜の夜、猫が立ち上がる足音の主を、窓口の小窓から足元しか見えない俺は三か月、知らなかった…
続きを読む:改札の猫は降りる人の足元を見る毎月、第二土曜に預かる紺のスーツの左ポケットには、映画の半券が一枚だけ入っていた。隣の八番はいつも空席だと思い込んでいた私は、秋の土曜、ポケットの半券が初めて二…
続きを読む:ポケットの半券は片方だけ残される結婚した年から、義母の雑巾が毎年十二月に一枚ずつ届いた。使い古しの押しつけだと思い、引き出しにしまい続けた七年。義母が骨折して入院した日、裁縫箱の底に、十二の四…
続きを読む:義母の雑巾に見覚えのある藍色がある店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
続きを読む:桶の豆腐は売り物ではなかった閉店を相談しに帰省した商店街の理容室で、八十一歳の祖父は毎朝十時に空の椅子へ白い布を掛けていた。祖父の予約表に十九年書かれ続けた名前と、その横の小さな点。父を見…
続きを読む:祖父の予約表に消えない名前がある駅前の補聴器店に、毎週かならず空の電池ケースを持って来る水野さんがいた。補聴器の電池はなぜ、毎晩そんなに減るのか。耳にかけない補聴器の理由を、私は雨の日の台所で…
続きを読む:補聴器の電池はいつも夜に減る学童の閉め作業のたび、三年生の颯くんはブラインドの羽根を一枚だけ開けて帰っていった。私は規則どおり、毎晩それを閉め直していた。理由を知ったのは、寒い冬の朝、まだ…
続きを読む:ブラインドの羽根を残して帰る子毎週水曜の十時四十分、介護タクシーの後部座席の犬は、病院の四階の窓に向かって一度だけ鳴いた。窓から出てくる白い袖をご主人のものだと思い込んでいた私は、その窓の本…
続きを読む:後部座席の犬は窓に向かって鳴くラクリマを応援する
読んでいただけるだけで、十分に励みになります。
当サイトは個人で運営しており、いただいたご支援はサーバー代やドメインの維持費に大切に使わせていただきます。
¥240 の一度きりのお支払いで応援いただけます。
お礼として、以後ずっと広告を非表示にいたします(継続課金はありません)。
ブラウザを変えた・Cookieを削除した場合は、登録のメールアドレスを入力してください。