ろうそくの火と墓守

公開日: ちょっと切ない話 | 家族

ろうそくの火(フリー写真)

急な坂をふうふう息を吐きながら登り、家族のお墓に着く。

風が強いんだ、今日は。

春の日差しに汗ばみながら枯れた花を除去して、生えた雑草を取り、墓石を綺麗に拭く。

狭い敷地に墓石は五つ、古い墓から新しい墓まで色々。

綺麗になった墓の前にろうそく台を置いて、ろうそくを挿す。

火を点けても、風が強いからすぐ消える。

父や兄は、墓の前に置いたろうそく台の火が五個同時に点くまで、何回も何回も火を点けていたな。

母は一回点いたらもう良いからと、父と兄にいつも怒っていたよな。

父はいつも俺に、

「お前が悪いことをしているから、曾祖父ちゃん、爺ちゃん婆ちゃんが怒っていて、ろうそくの火が点かないんだ」

と、訳の解らない説教を始めるし。

でも何故か、一つだけちっちゃいお墓のろうそくだけは、少々風が強くても消えることなく、火が点いたままだった。

「コロは俺が一番可愛がっていたから、火が消えんなあ」

と俺が言う。

「隣斜めに墓があって、風が来ないようになっているだけだろ」

と、兄の突っ込み。

コロとは、みんなが可愛がっていた犬。

母が無理を言って、建てた墓だ。

「何十年かしたら、何の墓か分からんだろな」

と、父の突っ込み。

お。

風がこんなに強いのに、五つあるろうそくの火が消えんと点いている。

父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん、ご先祖様、俺が最近頑張っているから機嫌いいんか?

元気な限りは必ず、墓参りに来るからな。

一人で墓掃除はなかなか大変だわ。

でも、また話したい。

ろうそくの火で良いから、何か俺に伝えることがあったら教えてよ。

じゃ、また来るね。

関連記事

散歩する親子(フリー写真)

家族三人で過ごした思い出

私の母親は、私が12歳の時に亡くなりました。 ただの風邪だったのに、入院してから1週間後にはもういなくなってしまったのです。 そして、父親も私が20歳の誕生日の1ヶ月後に…

手紙(フリー写真)

連絡帳の約束

俺が小学五年生の時、寝たきりで滅多に学校に来なかった女の子と同じクラスになったんだ。 その子は偶に学校に来たと思ったらすぐに早退してしまうし、最初はあいつだけズルイなあ…なんて思…

カルテを持つ医師(フリー写真)

医者になれ

高校一年生の夏休みに、両親から 「大事な話がある」 と居間に呼び出された。 親父が癌で、もう手術では治り切らない状態であると。 暑さとショックで頭がボーっとして…

花(フリー写真)

母の匂いと記憶

先日、母の日に実家へ帰った時、ジョイントを持って行った。 兄に子供が生まれた関係で家は禁煙になっていて、俺の部屋も物置き状態。 母親の隣で寝る事になったんだけど、何か気恥ず…

猫の寝顔(フリー写真)

猫が選んだ場所

物心ついた時からずっと一緒だった猫が病気になった。 いつものように私が名前を呼んでも、腕の中に飛び込んで来る元気も無くなり、お医者さんにも 「もう長くはない」 と告げ…

宮古島

沖縄の約束

母から突然の電話。「沖縄に行かない?」と彼女は言った。 当時の私は大学三年生で、忙しく疲れる就職活動の真っ只中だった。 「今は忙しい」と断る私に、母は困ったように反論して…

月

三度の祈り

それは今から数年前、俺の人生における三度の神頼みの始まりでした。 最初は七歳の時、両親が離婚し、厳しい祖父母の元へ預けられた時のことです。 彼らから「お前のせいで別れた」…

手を繋ぎ歩く子供(フリー写真)

身近な人を大切に

3歳ぐらいの時から毎日のように遊んでくれた、一個上のお兄ちゃんが居た。 成績優秀でスポーツ万能。しかも超優しい。 一人っ子の俺にとっては、本当にお兄ちゃんみたいな存在だった…

赤ちゃん(フリー写真)

生まれてくれてありがとう

子供が2人居る。 でも本当は、私は3人の子持ちだ。 ※ 18歳の春に娘が生まれた。 結婚してくれると言っていた父親は、結局認知すらしてくれなかった。 若い私にとっ…

空(フリー写真)

神様がくれたミッション

私は都内でナースをしています。 これは二年程前の話です。 ある病院で一人の患者さんを受け持つことになりました。 22歳の女性の患者さんです。 彼女は手遅れの状態…