声
俺には母親がいない。 俺を産んですぐ事故で死んでしまったらしい。 産まれた時から耳が聞こえなかった俺は、物心ついた時にはもう既に簡単な手話を使っていた。 耳が聞…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
俺には母親がいない。 俺を産んですぐ事故で死んでしまったらしい。 産まれた時から耳が聞こえなかった俺は、物心ついた時にはもう既に簡単な手話を使っていた。 耳が聞…
父の作業台の抽斗には、売り物にしない蝋細工の膳が、年にひとつずつ増えていた。失敗作だと聞かされていたので、抽斗を開けたのは十三回忌の今日が初めてだ。十七の膳に書…
私のじいちゃんは、私が生まれるまでアルコール中毒だったと聞いた。 酒に酔い潰れ、仕事を休む日も少なくなかったという。 ばあちゃんは何度も離婚を考えたと聞いた。 …
岡山・蒜山高原で酪農を営んでいた母は、牛舎のラジオを二十一年ものあいだ、ただの一度も消しませんでした。目を潰されて捨てられ、声を失った猫ナギ。十一年帰らなかった…
中学2年生の夏から一年間も入院した。 退院して間もなく高校受験。 高校生になると、下宿生活になった…。 高校を卒業して就職。 田舎を飛び出して、会社の寮に入った…
自分は三人兄弟の真ん中として、どこにでもある中流家庭で育ちました。 父はかなり堅い会社のサラリーマンで、性格も真面目一筋。それは厳格で厳しい父親でした。 母は元…
家にはもう十年飼っていた猫が居たんだ。 家の前は昔、大きな広場で、その猫はその広場の片隅にある車の中で寝ていた子猫だった。 俺と姉ちゃんでその猫を家の庭まで連れ…
あなたは本当に俺を困らせてくれたよね。 あなたと付き合った日。 朝のバスでいきなり大声で、 「付き合ってください!」 そんな大声で言われても困るし。 と言うか場…
熊本・山鹿の灯籠師だった友人は、電話をかけると必ず三回目のコールで出ました。半年に及ぶ入院のあいだ一度も見舞いに行かなかった私が、遺品整理の日に古いマグカップを…
結婚5年目に、ようやく待ちに待った子供が産まれた。 2年経って子供に障害があることが判明し、何もかもが嫌になって子供と死のうと思った。 そしたら旦那がメールが届…
兄が6歳、私が2歳の頃に両親が離婚した。 私にその当時の記憶は殆ど無く、お父さんが居ないことを気にした覚えもありませんでした。 小学生に上がる頃に母が再婚し、義…
19歳の頃、癌で入院中のお母さんに、泊り込みで付き添っていた。 その頃、私は予備校に行っていた。 お母さんが 「看護婦さんになって欲しい」 と言ったから、一つく…
数年前に、実家の一家の大黒柱である父が倒れた。 脳梗塞で、一命は取り留めたものの麻痺が残ってしまった。 母は親戚(成年後見人)に上手いことを言われて離婚させられ…
母の家の三和土には、誰も履かない小さなサンダルが、いつも同じ角度で揃えて置いてあった。妹のお古だと、俺はずっと思っていた。彼女の親に別れさせられた秋、母は泣きな…
県外への進学を、父だけが最後まで大反対しました。理由は一度も言ってくれません。勝手に決めて出て行った娘が、父の車のダッシュボードから折りたたんだ地図を見つけたの…