当たり前の日常

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

砂浜を歩くカップル(フリー写真)

小さな頃から、私と彼はいつも一緒でした。

周りがカップルに間違えるほどの仲でした。

私が彼に恋愛感情を抱いていると気付いたのは、高校3年生の時です。

今思うと、その前から恋愛感情を抱いていたように思います。

恋人ではないものの、近過ぎた距離と今の関係…。彼にとって特別な存在である自分の立場を壊したくないという思いから、気付かない振りをしていたのだと思います。

私が自分の気持ちに気付いた切っ掛けは、友達が私に彼の事が好きだと打ち明け、今まで二人きりだった登下校に友達が入って来てからです。

何故だか解らないけど、二人が楽しそうに話している様子を見るとイライラし、二人で居る時間が少なくなったなと思う度に胸が痛くなり、寂しくなる。

自分でも最低だと感じるような事を思ったりしていました。

決定的だったのは、友達の告白を彼が断った時、ホッとした自分を感じてからです。

この時から私は彼を幼馴染としてではなく、好きな人として意識して行きました。

ずっと気持ちを伝えられず、私は大阪に進学。彼は地元で就職と、お互いに離れる時期になってしまいました。

もう少しで大阪に行かなければならないという時期、私達は私が向こうに行く前に会う約束をしていました。

私にとって最後のチャンス。気持ちを伝えようと思っていました。

約束の日、待っていた私を見つけた彼は、手を振りながら走って来ました。

だけど次の瞬間、彼の姿は私の目の前から消えていました。

ハッとした時、彼は頭から血を流しながら横たわっていたのです。

頭が真っ白になり、状況に付いて行けませんでした。

その場に立ち尽くす事しか出来ず、状況に頭が付いて行った時には、人目も気にせず泣く事しか出来ずにいました。

彼の名前を必死に呼び、泣いていた事しか覚えていません。

彼は病院に運ばれ、お医者さんのおかげで命は助かりました。

だけど、意識は戻りませんでした。

目を瞑った彼の傍に居る時、看護師の方が私に小さな紙袋を渡して来ました。

中身は私への誕生日プレゼントとメッセージカードでした。

彼はその日から、目を覚ます事はありませんでした。

そして私が専門学校を卒業する春に、彼は息を引き取りました。

カードには、

『H、誕生日おめでとう。Hに伝えたい事があります。俺はずっと前からHが大好きです。

幼馴染のようにしか思ってないかもしれないから、突然で驚いていると思う。

でも、もし同じ気持ちだったら、28日に今日の待ち合わせ場所と同じ場所に、今日と同じ時間に来てください。

その時は、手紙じゃなくて言葉にして伝えます』

と書かれていました。

私は現在でも、28日には彼との待ち合わせ場所へ行き、お供えの花束と彼への想いを綴った手紙を添えています。

当たり前だと思っている日常は当たり前ではない。

一日一日を、今日が最後かもしれない、伝えられるのは今日が最後かもしれないと思い、一日を過ごせた感謝をしながら生きて行かなければならないと感じました。

私の想いは、あの頃から変わりません。

いつまで経っても、あなたは私の特別な存在です。

私の想いが遠いあなたに届きますように。

関連記事

花屋さん(フリー写真)

助け合い

会社で、私の隣の席の男性が突然死してしまった。 金曜日にお酒を飲み、電車で気分が悪くなって、途中下車して駅のベンチで座ったまま亡くなってしまった。享年55歳。 でも、みんな…

花

未読のメッセージ

青春の嵐が吹き荒れる中学三年生の春、突然の母の病気の診断を受け入れることができませんでした。 試験と部活動に明け暮れる日々に追われ、未来への不安と金銭的な心配に頭がいっぱいでし…

母(フリー写真)

母のビデオテープ

俺は小さい頃に母親を亡くしている。 それで中学生の頃は恥ずかしいほどグレた。 親父の留守中、家に金が無いかタンスの中を探していると、一本のビデオテープがあった。 俺は…

花火(フリー写真)

花火とプロポーズ

2012年の夏。 付き合って2年になる彼女がいた。 彼女とは中学の同級生で、成人してから付き合い始めた。 同窓会で2年振りの再会。 お互いにどんな性格なのか、趣…

トラ猫

背中のぬくもり

五年前に、我が家には一匹の茶トラ猫がいました。 当時、姉が家出同然に家を飛び出し、家の中の空気はひどく重く、どこか寂しげなものでした。 私はというと、そんな雰囲気を払拭し…

父と娘

強い人

母は、強い人だった。 父が前立腺癌だと判った時も、入院が決まった時も、葬式の準備の時も、私たち子どもの前で一度も泣かなかった。 だからなのか、当時私はまるで映画を観ている…

手を握る夫婦(フリー写真)

パパしっかり

妻へ まだ高校生だけどしっかり者の一人娘を遺してくれて有難う。 昨日の貴女のお通夜は寂しくないように沢山の友達連れて来てくれて有難う。 でもやっぱり寂しくて、娘と声…

鉛筆と参考書(フリー写真)

厳しい母

私の母はとても厳しい。 身の回りの事は全て自分でやらされていた。 勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。 定期テストで二番を取ると、 「二番は敗者の一番だ」…

桜

桜色の約束

かつて、自分を嫌な人間だと思い込んでいた僕がいました。 僕には自信がなく、容姿にも、頭の良さにも恵まれていなかった。それでいて、人を欺くことを厭わない小心者でした。 誰も…

ハンバーグ(フリー写真)

お母さんの弁当

俺の母さんは、生まれつき両腕が不自由だった。 なので料理は基本的に父が作っていた。 でも遠足などで弁当が必要な時は、母さんが頑張って作ってくれていた。 ※ 小学六年生の…