タグ: 泣ける話

転校生の父が歌い出した日

北関東の工業団地の町に転校してきた、日本語のたどたどしい同級生。わたしは一度だけ、彼を見捨てた。合唱コンクールの日、耳の聞こえないはずの彼の父が客席で立ち上がり…

頂に届けたふたつの櫛

女人禁制の霊山を担ぐ強力の俺と、頂を焦がれた許婚のスズ。彼女が遺した黄楊の櫛に託された『片割れが待っている』という言葉の本当の意味を、俺は雲海の頂で知る。昭和の…

彼が名を彫った二本の若木

子どもは望めないと告げられた日、私は好きだからこそ、彼に別れを切り出した。けれど彼は、裏の畑に植えた二本の若木の根元に、生まれるはずだった子の名を彫った名札を、…

杜氏の櫂と白いままの帳面

昭和二十二年の秋、台風で汽車が止まり、山あいの酒蔵に二十数人が流れ着いた。米は尽きた。義父は翌年の仕込みのために三年かけて隠した一俵を釜に空け、酒造りの櫂で粥を…