猫が選んだ場所
古書店の帳場で十六年を共にした老猫の看取りの物語です。最期の居場所を探して姿を消した灯が、泥まみれになって帰ってきて、最後に選んだのは、わたしの腕の中でした。深…
古書店の帳場で十六年を共にした老猫の看取りの物語です。最期の居場所を探して姿を消した灯が、泥まみれになって帰ってきて、最後に選んだのは、わたしの腕の中でした。深…
四十二歳で僕を産んだ母は、一年前に突然逝きました。捨て続けた弁当の付箋、縫い物かごの底の書き損じの束、「まごのため」と書かれた菓子缶――遺品が明かす母の愛を描く…
昭和五十年代、紡績の町に来た巡業サーカス。切符売場の前で、七人の子を連れた父親が立ち尽くした夜の感動する話です。左官職人の父が見せた、たった一言の優しさ――「ポ…
妻を亡くした港町の調律師に残されたのは、八歳の娘と三歳の息子でした。幼稚園の運動会『おやこでダンス』、入場門に駆け出した小さな影――藍色の割烹着と子守歌が紡ぐ、…
父の借金、働き詰めの母、古い服しか着ない祖母。大学に落ちた春、俺の部屋に祖母が持ってきたのは、使い込まれた手提げ袋だった。通帳の一頁目に並ぶ日付の意味を知ったと…
家族に言えない悩みを、布団の中で茶トラ猫にだけ打ち明けていた日々。その子を見送って五年、疲れ果てて眠る私の背中に、忘れられない重みが戻ってきた。亡くなった後も寄…
優しい恋人を世間の目で測り、つらく当たり続けてしまった俺の泣ける話です。彼女が割った父の形見の帆船模型と、事故のあとに見つけた一冊の日記が、すべてを変えました。…
六歳の娘が、こづかいを少しずつ貯めて、買おうとした、たった一つの願い。妻を亡くし印刷工場で残業に追われる父と娘の絆を描いた泣ける話です。本当に大切なものを置き去…
閉園の決まった岸ヶ丘動物園へ、私は祖父の遺した古い象舎日誌を持って向かいました。昭和十四年に来園した三頭の象と若き象係の日々、戦争が奪っていったもの、舌を白い布…
何をしても続かなかった二十六歳の私が、下町の古い銭湯の番台でようやく見つけた居場所。釘に五十年掛かったままの四十七番の下足札、雪の晩の一杯の熱い番茶、そして混み…
父の暴力から母と二人で大分・臼杵へ逃れ、剣道道場を自分の足で探し当てた九歳の少年。入門から半年、彼が道場の戸にいちばん近い場所へ座り続けた本当の理由とは。十九時…
右手の指が利かない母が作った不格好な弁当を、僕は遠足の朝にいらないと言い放ちました。三ヶ月だけ味わえた母の肉じゃがと、倉敷の駅裏の喫茶店に残されていた紐の輪。母…
新潟の燕で十五の春から洋食器を磨いていた僕は、街の洋食屋の品書きが一文字も読めませんでした。恥をかいてうつむいた僕の隣で、慎一が同じ注文をしてくれた日のこと。二…
静岡・浜松でピアノの響板を作る工場で出会った妻は、生まれたときから音を知らないろう者でした。西日の部屋で背後からそっと告げた、聞こえるはずのない言葉。それでも妻…
群馬の桐生でのこぎり屋根の工場を壊す解体屋になった十七歳の私に、母が誕生日に贈った一本の単焦点レンズ。写真機店の古い帳面と、玄関で毎日拭かれていたサンダルの底が…