タグ: 泣ける話

母の匂いと記憶

三年ぶりに帰省した俺は、家の事情で母の隣に布団を並べることになった。布団に染みた陽の匂いの奥にあった薄荷と糸の匂いが、忘れていた記憶を呼び覚ます。指のあかぎれ、…

弁当箱の温度

恥ずかしいと突き返した、母の手作りの弁当。その毎朝の三百円の裏で、母が自分の昼食をそっと抜いていたことを、私が知ったのは十年も後のことでした。空腹の夜にかけた一…

母ちゃんの記憶

四つで母を亡くした俺に残った記憶は、ブランコの鎖の音だけだった。右がカ、左がコ。三十年後、親父が病室でこぼした一言と、押入れの缶から出てきた一枚の短冊が、あの夕…

姥捨て山

祖母の遺品の缶から、一本の木の枝が出てきました。村に伝わる背負い坂の言い伝えと、施設へ向かう車の窓から痩せた腕を伸ばし続けた祖母。親が最後まで口にしなかったこと…

彼女に振られた理由

付き合って三年の彼女に、とつぜん別れを告げられました。理由は「ほかに好きな人ができた」。けれど半年後、私はその嘘の裏に隠された真実を知ります。時計修理士の私と、…

綺麗なお弁当

遠足の山の上で、小学三年生の柚が広げた弁当箱は、花でびっしりと埋まっていた。連絡船で働く父と、母の仏壇のりんどう。前の日の夕方に職員室へ来たあの子の一言を、私は…

忘れてはならない

手を繋ぐとき必ず手首を掴む祖母には、七十年間誰にも言えない夏の記憶がありました。停電の夜の蝋燭の下で初めて語られた、離してしまった妹の手と、届かなかった一杯の水…

気付かないふり

全盲の彼女に告白した夜、涙を隠せない私に、彼女はそっと気付かないふりをしてくれました。手術で光を取り戻した彼女が最後にくれた一言。潮の匂う港町の小さな電気店を舞…

十円玉の価値

五百円玉と百円玉と十円玉。いちばん大きいお金はどれかと問うと、その子は迷わず十円玉を指しました。養護学園の緑の公衆電話と、毎晩磨かれた一枚の硬貨。撤去の日の三十…

結婚記念日おめでとう

三千部の乱丁が見つかり泊まり込みが決まった夜、工場長は私に一通の茶封筒を託しました。車中で開けると、落としたはずの押し花の栞と、鉛筆で書かれた三行の言葉。結婚記…