蛍は亡くなった人の魂

蛍(フリー写真)

祖父が死んで、もう12年になる。

幼い頃から、

「蛍は亡くなった人の魂だから、粗末に扱うな」

と祖父に教えられてきた。

去年の8月15日の夜、父と俺とで家族総出の花火大会の後始末をしていた。

二人きりで居ると死んだ祖父の話になって、

「爺さん、帰って来てるかな」

と話したその時。

目の前を通り過ぎる小さな光が。

それを見て、父と俺は呆気に取られた。

蛍が一匹、瞬きながら俺達の頭上を飛び回り、家の屋根を行ったり来たり。

「爺さんが帰って来たんだ」

どちらともなく呟いたら、蛍は真っ直ぐ天に向かって飛び上がり、星の瞬きの中に消えた。

父曰く、63年生きて来て、この時期に蛍を見たのは初めてだとの事。

あれは間違いなく祖父だったと、俺と父は信じている。

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