タグ: 泣ける話

豆の数だけ

戦時中、町役場に勤める祖父は毎晩ひと粒の大豆を空の袋へ移していた。これは祖父の思い出をたどる泣ける短編小説です。孫と過ごした一日を宝として数え続けた祖父が、ある…

妻が手放した櫛

昭和三十三年の秋、一夜の野分が稔りの田を流した。荒れる私に、妻はただ黙って耐えていた。妻の優しさに私が気づいたのは、亡き母の形見の鼈甲の櫛を手放してまで田を守ろ…

父の独楽

父の独楽を、私は四十年ものあいだ箱の奥に仕舞っていた。戦時中、時計の修理に追われ、幼い息子と遊んでやれなかった父。手すきになったらいっしょに回そう、という約束は…

父の色褪せた半纏

色褪せて擦り切れた父の半纏が、子供の頃の私には恥ずかしくてたまらなかった。昭和の下町、寡黙な提灯職人だった父と息子の物語。その裏地に隠されていた、先立った母の縫…

恩師の体温計

戦後すぐの山あいの貧しい村で病弱だった私の脇に、恩師の体温計を毎日挟みに来てくれた矢島先生。四十年後、記憶を失い私を忘れた先生に、私は同じ体温計で五分の検温を続…

親方の革砥を継いだ夏

昭和の終わり、北関東の城下町で三代続いた床屋を継いだ続かない俺。大叔父である先代から受け継いだ親方の革砥と、三十年分の常連カルテだけを頼りに刃を握る。嵐の朝、シ…

実話|紅花染めの白猫

昭和六十年の米沢、紅花染めの白猫を私はいつも追い払っていた。寡黙な親方が四十年誰にも告げず欠けた茶碗で養い続けてきた本当の理由は、空襲で失った五歳の妹『文子』へ…

母の代筆 二十九通

介護福祉士の主任として、よその家のお母ちゃんばかり何百人と看取ってきた私が、亡き母の鏡台で見つけた桐の文箱と二十九通の便箋。それはすべて、面会に来られない娘を庇…

恩師の三十五年の一行

上田の在所から届いた一通の手紙。三十五年ぶりに訪ねた中学校の恩師が、桐の箱から取り出した一枚の短冊。墨と万年筆と鉛筆で書き足された、教え子の人生を読み続けた一行…

ばあちゃんの真空管

認知症で僕の名前を忘れた祖母。それでも深夜のAMラジオから僕の声が流れた瞬間、彼女は『ホタくん、また喋ってる』と呟いた──真空管ラジオが繋いだ最後の言葉を綴る、…

妻が拾った4380の音

新聞配達25年、誰にも見られない仕事だと思っていた。亡き妻が毎朝海岸で原付の音を聴き、一日一個の貝殻を拾い続けていたことを、漬物樽の中に残された四千の貝殻と犬へ…