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彼が灯さなかった分校

昭和三十四年の奥能登。電気の来ない集落の分校で、十九歳のわたしは毎晩ランプの火屋を磨いていた。ようやく電線が届いた夜、村中に灯りがともるのに、分校だけが暗いまま…

父が捨てなかった種袋

父の種袋には、売れ残りの古い種が入っているのだと思っていました。無口な父を見送り、二十四で小さな種苗店を継いだ春、私は触るなと言われた一番上の棚に手を伸ばします…

彼は私の名前を履いていた

昭和三十六年、堤防工事の飯場から転校してきた幼なじみに、私は兄のお下がりの運動靴を貸しました。学級費が消えた日、私は教室で黙りました。四十年後、同じ堤防の改修工…

頂に届けたふたつの櫛

女人禁制の霊山を担ぐ強力の俺と、頂を焦がれた許婚のスズ。彼女が遺した黄楊の櫛に託された『片割れが待っている』という言葉の本当の意味を、俺は雲海の頂で知る。昭和の…

幼馴染に彫った最後の舟

昭和の造船の町で、船大工見習いの俺は幼馴染の千代に想いを伝えたばかりだった。突然倒れた彼女の枕元で、俺は「いつか乗せて」と約束した小さな木の舟を彫り続けた。最後…

船頭がくれた欠けた飯茶碗

十七の冬、厳しい父と衝突し家を捨てた俺は、雪の北の港町で行き場を失った。飯にありつけず座り込む俺に声をかけたのは、腰に藍色の手ぬぐいをさげた老いた船頭だった。名…