手放した三頭の馬と古い鈴
機械が牧場にやってきた昭和の冬、私は世話をしてきた三頭の馬を手放すことになった。最後の朝、ハナはそっと私の肩に額を押しあてた。北の開拓村で交わした別れと、今も引…
機械が牧場にやってきた昭和の冬、私は世話をしてきた三頭の馬を手放すことになった。最後の朝、ハナはそっと私の肩に額を押しあてた。北の開拓村で交わした別れと、今も引…
昭和三十三年の秋、一夜の野分が稔りの田を流した。荒れる私に、妻はただ黙って耐えていた。妻の優しさに私が気づいたのは、亡き母の形見の鼈甲の櫛を手放してまで田を守ろ…
色褪せて擦り切れた父の半纏が、子供の頃の私には恥ずかしくてたまらなかった。昭和の下町、寡黙な提灯職人だった父と息子の物語。その裏地に隠されていた、先立った母の縫…
転任前日に音楽の先生がくれた一枚の五線紙を、わたしは読まないまま忘れた。五十三歳のある日、母が熊本の実家を片付けて送ってきた文具箱の底から、その紙が出てきた。万…
上田の在所から届いた一通の手紙。三十五年ぶりに訪ねた中学校の恩師が、桐の箱から取り出した一枚の短冊。墨と万年筆と鉛筆で書き足された、教え子の人生を読み続けた一行…