あなたが立ち止まった電柱
北海道・増毛の造り酒屋で冬だけ働いていたあなたと別れて、七年が経ちました。坂の途中の電柱で必ず一度だけ立ち止まっていた理由と、あの別れの言葉を誰から引き取ったの…
北海道・増毛の造り酒屋で冬だけ働いていたあなたと別れて、七年が経ちました。坂の途中の電柱で必ず一度だけ立ち止まっていた理由と、あの別れの言葉を誰から引き取ったの…
クリスマスイブの喧嘩で「ごめんなさい」が言えなかった私に、彼のお母さんが見せてくれたのは、携帯の下書きに残る一通の未送信メールだった。意地っ張りな私が十年守り続…
事故で足が動かなくなった私が通れる店は、なぜか毎年少しずつ増えていきました。商店街の入口にはめられた木のスロープは、どれも手前の角の落とし方が同じです。乾物屋の…
沼津の幼稚園のバスで隣に座っていた美咲と、私は二十歳から一緒に暮らした。プロポーズのために、眠る美咲の薬指に白い糸を回して指輪のサイズを測った九月の夜。前々日に…
レンタル屋の駐車場で、せーので同時に送信した二通のメール。俺のメールには、あと一年しか持たないという告白が、彼女のメールには、妊娠したという報告があった。同棲貯…
サラ金に追われた父が消えた朝、十九歳の俺は別々に暮らしていた母の家へ転がり込んだ。組子職人の修業と、恋人直美の袖口の癖。筑後の言葉の「や」の本当の意味を知るまで…
旅立った恋人が最後まで気にしていたのは、毎晩2ゲットを取られて悔しがる、画面の向こうの「3の人」だった。一周忌の午前四時、僕が叩いたF5キーの先で、返ってきた一…
大阪の市バスで大声の告白をした千波は、左の耳にだけ白い貝のピアスを揺らし「右は落とした」と笑っていた。治ったと告げた翌日の別れ、東京から届いた二通の手紙。高校三…
無愛想で友だちの少なかった私を、電車で四十分かかる高校にまで、中学の頃の噂といじめが追いかけてきた。なぜか半年でそれが消えていった頃、心臓の弱い隣の家のジュンが…
片胸のない彼女と決めた暗証番号は、二人の誕生日を足した〇五一二。余命を告げられても笑って過ごした日々のあと、彼女が旅立って半年で届いた診断書の時刻の欄に、その暗…
医学生だった頃、右の脚が重いと言った恋人の言葉を聞き流してしまった俺。遺された古いノートと最後の言葉に支えられて心臓外科医になった今、救急外来で同じ訴えを耳にす…
浜に流れ着いた浮子は底を上にして置く——それが加瀬浦の決まりごとでした。あの子が繰り返した「うちの印、覚えとって」の意味を、私は四十年かけて知ります。約束の前日…
付き合って三年の彼女に、とつぜん別れを告げられました。理由は「ほかに好きな人ができた」。けれど半年後、私はその嘘の裏に隠された真実を知ります。時計修理士の私と、…
閉館の貼り紙が出た古い名画座で、私は別れた彼が遺した上映日誌を開いた。映写室の熱、雷の夜のオールナイト、病室の白い天井。鉛筆の特集リストは九本で止まり、十本目だ…
大阪から雪国の高校へ移った二年生の冬、私は訛りを笑われて口を閉じました。渡り廊下の隅で泣いていた私に声をかけたのは、いつも古いカメラを持つ七海さんです。フィルム…