六十年分の桜のしおり
能登の縁側に、横浜から見知らぬ封筒が届いた。差出人は、十五の夏に桜のしおりを手渡した少年の娘だった。世界中の港の本に一枚ずつ挟まれた和紙と、朱色の組紐の結び目。…
能登の縁側に、横浜から見知らぬ封筒が届いた。差出人は、十五の夏に桜のしおりを手渡した少年の娘だった。世界中の港の本に一枚ずつ挟まれた和紙と、朱色の組紐の結び目。…
陶芸家の俺は10年前の元恋人を忘れられず、もらった花束を干し花にしてずっと工房に置いていた。ある秋、その彼女が客として現れ——切なくも温かい再会の物語。…
十年前に告白できなかった初恋の人と、出張先の城下町で再会した。祖父のリハビリに付き添う彼女が手にしていたのは、蔵から出してきた古い番傘だった。泣ける恋愛の感動短…
図書館司書の桜は、亡くなった元彼の部屋で古いカセットテープを見つけた。「桜へ」と書かれたテープは10本。毎年誕生日の前夜に録音された、届かなかった声だった。…
十七年前、文化祭で落としたカーディガンのボタン。拾ってくれた隣の席の彼は、返さないまま卒業した。薬剤師になった私の前に、あの日のボタンが届くまでの物語。…
温泉街で偶然見つけた懐かしい楽器店。二十年の時を隔てて、あのジャズの音が再び鳴っていた。…
二十年前の雨の夜、団地の公園で八時間立ち続けた少年がいました。靴の先は、ほかより一枚だけ低い敷石にきっちり収まっていたのです。二十年後に同じ場所へ行くと、その一…
別れた翌日、郵便受けに届いた返ってきたお守りと短い手紙。港町の郵便局員が、彼女が手を離した本当の理由を半年後の病室で知り、毎月の神社参りに込められた祈りへたどり…
十年前、彼女は突然電話を切って、そのまま姿を消した。理由も聞けないまま月日が過ぎ、タクシー運転手になった私は、ある夜、偶然すべてを知ることになった。…
閉店した花屋の棚の裏から見つかった一枚の写真。元恋人が二十年前にそっと置いていった、声にならなかった想いの手紙。商店街の花屋を畳んだ男が気づいた、あの日の嘘と赦…
事故で左半身に麻痺が残った私は、書店の仕事でも恋人との帰り道でも、いつも半歩うしろを歩いていた。付き合って三か月目の日曜日、彼が真剣な顔で語った並んで歩く理由と…
若年性の認知症になった恋人に、渡せずにいたエメラルドの指輪。一年後、北陸の海辺で再会した二人の二時間と、彼女が呟いた世界一遠くて近い場所という言葉の意味を、静か…
君のための手話を、こっそり覚えた日々。公園の噴水前で待ち合わせをしていた俺は、手話で想いを伝える若い二人を見かける。入門書を開いた夜、鏡の前の不格好な練習、そし…
喧嘩をした土曜の朝のあと、菜月からの返信はぷつりと途切れた。鳴った着信と、遅れて届いた「ごめんね」。三年後の命日、私が初めて送った一通が、途切れた言葉の続きを探…
三年間、海苔の缶の底に眠らせた最後の手紙を、私はようやく開けた。二十歳の雅人が鉛筆まじりの字で書いた便箋の裏には、読めるようになった頃の私への追伸があった。阪神…