タグ: 家族

ママの棺

一歳半で母を見送った友人は、母の顔も声も覚えていません。それでも、眠る子の背中を二回叩いてひとつ撫でる手つきだけが、二十一年後の今も彼女の手に残っていました。金…

世界一の良い娘

宮城の白石で温麺を作る小さな工場の二代目です。娘のバイオリンを巡って女房と喧嘩した翌日、小学二年の娘が封入作業の求人へ自分で電話をかけていたと知りました。毎晩、…

天国へ持って行きたい記憶

タオル工場で三十年、白い生地の傷を探し続けた母。傷を見つけるたびに結んでいた赤い一本の糸には、娘が二十四年ものあいだ気づかなかった意味がありました。母がためらわ…

不器用な親父

背中を向けたまま何も言わない父でした。合格の日に病室から掛かってきた一本の電話と、物置のブルーシートの下で五年ものあいだ鳴りつづけていた小さな音の正体。浜松のピ…

血の繋がらない娘

妻の連れ子だった娘を、鬼瓦を彫る職人の私は十二年かけて育てました。血の繋がらない父娘に向けられた世間の冷たい目、そして結婚式で娘が静かに明かした「鬼の裏に彫られ…

半年前の俺へ

セメントの町で三交替に就いた兄は、夜勤明けの朝、必ず弟の運動靴を爪先だけ外へ向けて直してから上がりました。その小さな癖の本当の意味と、閉めた覚えのない扉。半年前…

おばあちゃんが注いだ愛情

保健センターの母子教室に迷い込んできた、おばあさんと二人の男の子。袖口のほつれを見もせずに継いだその手つきの意味を知ったのは、半年後、桐生の織物工場の休憩所でし…

二つの指輪

三度目の流産に泣く妻の隣へ、産科の待合室で見知らぬ五分刈りの男の子が二つの指輪を差し出しました。水色だけが白く曇っていた理由を知ったのは、六年後の祭りの夜のこと…

叔父さんの血

盆地の桃農園で暮らす、血の繋がらない兄と私。無口な兄が黙って払ってくれた入学金、姪のために限界まで差し出した輸血。そして姪の結婚式で読まれた一通の手紙が、継いだ…