俺を育ててくれた兄貴

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。

兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。

自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。

親父と結婚する時に双方の親から反対されて縁を切られているから、親族に頼れる人も居らず二人で暮らしていた。

自分が13歳の時に母親が再婚。

相手にはその時、23歳になる息子が居て、その息子はもう独立していたから顔を合わせる事など滅多に無く、家族になったという感覚は皆無だったな。

そして再婚して一年も経たない内に、両親二人が旅行中に車の事故で死んだんだ。

一人で家に取り残された中学生の自分は、警察の話もまともに聞こえない程パニックになっていた。

独立して遠くに住んでいた兄貴が急いで飛んで来て、葬式の準備やら何やら色々やってくれた。

葬式では母親側の参列者が全く居なかった事を今でも憶えている。

葬式の後、兄貴が

「お前、ウチに住め。中学もこっちに通え」

と言ってくれた。

兄貴には同棲している彼女が居て、気まずかったり気恥ずかしかったりしたけれど、その彼女も本当に優しくて、二人には大学まで行かせてもらった。

時は経ち、去年の内定式の後。

兄貴と二人で近所の居酒屋で飲んだ時に、卒業したら家を出て行くという話をしたら、

「お前が居るせいであいつ(彼女)と如何わしい事が全然出来なかったんだぞ!もっと早く出て行って欲しかったわ」

と、頭を叩かれたと思ったら急にボロボロ泣き出して、

「家族を亡くして一人きりで、今まで寂しかったろう?

辛い思いもしただろうに、よく頑張ったな」

と頭を撫でてきた。

自分も号泣ですよ。

店員は引いていたけれど。

クリスマスに兄貴と彼女と自分で家で食卓を囲んでいる時に、

兄貴「こいつももう卒業だ。今まで本当に苦労かけたな。でも申し訳ないが、これからも苦労に付き合ってくれ、出来ればずっと。結婚しよう」

彼女「ばか…良いわよ、当たり前じゃない」

自分「今まで本当にありがとうございました」

その後、三人で泣いて泣いて。

それでもって正月に婚姻届を提出していた。

あまりに嬉しかったから書いてみたかっただけ!

明日、母さんの墓前に報告に行く!ひゃっほい!

よし寝る。

関連記事

柴犬(フリー写真)

犬のきなこ

10年以上前、友達が一匹の柴犬を飼い始めた。 体の色が似ているからと言って、その犬は『きなこ』という名前になった。 友達は夕方になるとよく『きなこ』を散歩させていた。 …

恋人同士(フリー写真)

彼の真意

今年の5月まで付き合っていた彼の話。 料理が好きで、調理場でバイトをしていた。 付き合い始めの頃、私が作った味噌汁に、溶け残りの味噌が固まって入っていたことがあった。 …

カップル

君と一緒に過ごせた日々

昨日、僕の恋人が亡くなりました。 長い病気の末、彼女はこの世を去りました。通夜が終わり、残された荷物を病院から持ち帰ることになりました。その荷物の中に、彼女が書いたと思われる手…

ウエディング

隠された記憶

友人の結婚披露宴に参加した際の出来事です。式も終盤に差し掛かり、新婦の父親のスピーチの時間がやってきました。 「明子。お前が生まれたばかりの頃、お母さんは病気で亡くなってしまっ…

虹(フリー写真)

道路に架かった虹

昨日、犬の散歩をしていた時の事。 20代後半くらいの男性が二人、作業着でマンホールを調べていた。 少し立ち止まって見ていたら、前から女子中学生が泣きながら歩いて来た。 …

子犬(フリー写真)

子犬を買いに来た男の子

あるペットショップの店頭に『子犬セール中!』の札が掛けられました。 子犬と聞くと子供はとても心をそそられるものです。 暫くするとやはり、男の子が店に入って来ました。 …

放課後の教室

恩師の愛情

私は高校2年生の時にうつ病になった。 切っ掛けは、2年半付き合った彼氏に振られたことと、友達から仲間はずれにされるようになったことだと思う。 毎日、泣いていた。 プ…

太陽と手のひら(フリー写真)

この命を大切に生きよう

あれは何年も前、僕が年長さんの時でした。 僕は生まれた時から重度のアレルギーがあり、何回も生死の境を彷徨って来ました。 アレルギーの発作の事をアナフィラキシーショックと言…

裁縫(フリー写真)

妹に作った妖精衣装

俺には妹が居るんだが、これが何と10歳も年が離れている。 しかも俺が13歳、妹が3歳の時に母親が死んでしまったので、俺が母親代わり(父親は生きているから)みたいなものだった。 …

ビル

隣の席の喪失と救い

ある日、私の隣に座っていた会社の同僚が亡くなりました。彼は金曜日の晩に飲んだ後、電車で気分が悪くなり、駅のベンチに座ったまま息を引き取ったのです。55歳という若さでした。 私た…