姉さんと呼べなかった二十年
兄の嫁として来た佐和子さんを、私は二十年「姉さん」と呼べずにいた。秋の川が兄を連れて行った日、親族の前で「この子は私の妹です」と言い切った人。その言葉の本当の意…
兄の嫁として来た佐和子さんを、私は二十年「姉さん」と呼べずにいた。秋の川が兄を連れて行った日、親族の前で「この子は私の妹です」と言い切った人。その言葉の本当の意…
昭和二十二年の秋、台風で汽車が止まり、山あいの酒蔵に二十数人が流れ着いた。米は尽きた。義父は翌年の仕込みのために三年かけて隠した一俵を釜に空け、酒造りの櫂で粥を…
昭和四十四年、雪深い湯の町の写真館。療養に来た娘・佐紀さんに頼まれ、僕は毎日一枚だけ町を撮った。裏を見ないでとわたした写真の、その裏に綴られていた言葉――万華鏡…
昭和の造船の町で、船大工見習いの俺は幼馴染の千代に想いを伝えたばかりだった。突然倒れた彼女の枕元で、俺は「いつか乗せて」と約束した小さな木の舟を彫り続けた。最後…
昭和四十四年の豪雪の峠。乗合バスが横転し、七歳の姪は座席の下に閉じ込められた。半狂乱の私を救い出したのは、黄色い合羽の若い除雪作業員だった。背中を裂かれながら笑…
十七の冬、厳しい父と衝突し家を捨てた俺は、雪の北の港町で行き場を失った。飯にありつけず座り込む俺に声をかけたのは、腰に藍色の手ぬぐいをさげた老いた船頭だった。名…
海辺の町の小さなプラネタリウムで星を映す私と、心臓の弱い幼い少女ほのか。名もない星に名前をつけたあの子が、落とした星座ノートの最後の頁にそっと描き残していたもの…
駅前の小さな時計店を継いだ婿の俺と、一度も直し方を教えてくれない不器用な義父。国家試験の合格を病室から不器用に祝う電話と、義父が四十年止めたままの形見の振り子時…
昭和の城下町の貸衣装店を舞台にした泣ける話。先に逝った父の黒紋付を、息子の祝言のために仕立て直してほしい——そう持ち込まれた一枚の紋付の裏地から、二十年眠ってい…
昭和の港町を舞台にした泣ける話。風鈴職人の私のもとへ、海から戻らぬ父のために、泣いてばかりの母を笑わせたいという男の子が訪れた。豆粒ほどの小さな風鈴に託した祈り…
撮らせてくれない一枚の写真——昭和の雪国の城下町に生きる若い写真師と、三つ年上の仕立ての女の物語。胸の病を隠し、笑って嘘の別れを選んだ人が遺した黒い台紙と最後の…
紙芝居師の私が、祖母の形見の木箱から見つけたのは、端の焦げた朝顔の絵。その裏には、空襲で戻らなかった幼い弟の名前が、震える字で記されていた。祖母の紙芝居が六十年…
昭和の信州の宿場町を舞台にした泣ける話。峠の鍛冶屋として生きる私は、生き別れた父の顔を知らずに育った。ある雪の夜、村に担ぎ込まれた行き倒れの老人の巾着には、幼い…
昭和の瀬戸内の造船の町を舞台にした泣ける話。身寄りのない船大工の見習いだった私は、廻船問屋の一人娘・志津に恋をした。家格の壁と遠い療養先、月に一度届く文の終いに…
昭和の城下町の銭湯を舞台にした泣ける話。番台を継いだ俺が、だらしないと決めつけた路地裏の少年。先代が遺した帳面には、母を見送り独りで長湯をする子の姿が記されてい…