晴れた日にだけ開くりんどう
港町の小学校で受け持った九歳の柚は、遠足の弁当箱にりんどうを隙間なく並べて持ってきた。白いご飯と焦げた卵焼きを、あの子は仏壇の花で隠していたのだ。母を見送った、…
続きを読む:晴れた日にだけ開くりんどう港町の小学校で受け持った九歳の柚は、遠足の弁当箱にりんどうを隙間なく並べて持ってきた。白いご飯と焦げた卵焼きを、あの子は仏壇の花で隠していたのだ。母を見送った、…
続きを読む:晴れた日にだけ開くりんどう手を繋ぐとき必ず手首を掴む祖母には、七十年間誰にも言えない夏の記憶がありました。停電の夜の蝋燭の下で初めて語られた、離してしまった妹の手と、届かなかった一杯の水…
続きを読む:忘れてはならない南の島の古い桟橋で、日本の歌を口ずさむ老人と出会った。太平洋戦争のさなか、共に陣地を築いた島の若者たちが、日本兵の隊長から浴びせられた一言の暴言。裏切られた——…
続きを読む:戦時中のパラオにて閉館の貼り紙が出た古い名画座で、私は別れた彼が遺した上映日誌を開いた。映写室の熱、雷の夜のオールナイト、病室の白い天井。鉛筆の特集リストは九本で止まり、十本目だ…
続きを読む:上映日誌と十本目の映画大阪から雪国の高校へ移った二年生の冬、私は訛りを笑われて口を閉じました。渡り廊下の隅で泣いていた私に声をかけたのは、いつも古いカメラを持つ七海さんです。フィルム…
続きを読む:フィルムの一枚目は空けておく全盲の彼女に告白した夜、涙を隠せない私に、彼女はそっと気付かないふりをしてくれました。手術で光を取り戻した彼女が最後にくれた一言。潮の匂う港町の小さな電気店を舞…
続きを読む:気付かないふり造船の町に生きた父は、病に伏してなお息子の全力のキャッチボールを受けとめました。痩せた腕で一球も落とさず、痛みと引き換えに投げ返してくれた三十球。最後の手帳に遺…
続きを読む:父と息子のキャッチボール五百円玉と百円玉と十円玉。いちばん大きいお金はどれかと問うと、その子は迷わず十円玉を指しました。養護学園の緑の公衆電話と、毎晩磨かれた一枚の硬貨。撤去の日の三十…
続きを読む:十円玉の価値三千部の乱丁が見つかり泊まり込みが決まった夜、工場長は私に一通の茶封筒を託しました。車中で開けると、落としたはずの押し花の栞と、鉛筆で書かれた三行の言葉。結婚記…
続きを読む:結婚記念日おめでとう雨の県道で倒れた身元不明の女性の首に、錆びた留め金のペンダントが下がっていた。ピンセットでこじ開けた蓋の中の写真を、当直医の佐伯先生は知っていた。結婚式まであと…
続きを読む:ペンダントの錆びた留め金北陸の銭湯を継いで十七年。番台の上で妻の銀色の携帯が一度だけ震えた夜から、私は落ち着かなくなりました。綾が頑なに機種変更をしない理由は、脱衣所の棚に置かれた古い…
続きを読む:綾が離さない銀色の携帯白血病で余命わずかとなった二十七歳の船大工と、毎日欠かさず病室へ通い続けた恋人。港町の病室で最後の時を過ごす二人の姿を、当時十六歳だった私はそっと見つめていまし…
続きを読む:最後の時を過ごす二人母子家庭で小さな惣菜屋を営みながら三人の子を育てた母。電気やガスが止まった夜も割烹着姿で笑い、夜は清掃の仕事も掛け持ちしていた母が、高校進学を諦めようとした私に…
続きを読む:進学を願ってくれた母体の弱い母が、震える手で毎朝作ってくれた見映えの悪いお弁当。恥ずかしさからそれを捨て続けた娘が、母を亡くしたあとに見つけた一冊の日記。その最後の一行に綴られてい…
続きを読む:海老の入ったお弁当生まれる前から家にいた白猫のミーコ。嵐の夜に父が拾ったその子は、漁師の父を持つ港町の少女のそばで、つらい日もうれしい日もいつも静かに寄り添い続けてくれました。一…
続きを読む:白猫のミーコラクリマを応援する
読んでいただけるだけで、十分に励みになります。
当サイトは個人で運営しており、いただいたご支援はサーバー代やドメインの維持費に大切に使わせていただきます。
¥240 の一度きりのお支払いで応援いただけます。
お礼として、以後ずっと広告を非表示にいたします(継続課金はありません)。
ブラウザを変えた・Cookieを削除した場合は、登録のメールアドレスを入力してください。