白猫のミーコ

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

白猫(フリー写真)

私が生まれる前から、私の家にはミーコという猫が居た。

白くて、ふわふわで、温かかった。

私はミーコが大好きだった。

ミーコもそんな私に懐いてくれた。

父が入院し、母まで体調が悪くなった時も。

中学入試をさせたがった母が何一つ出来ない私に怒り、私が家の外に追い出され一人で泣いていた時も。

両親が働きに出て寂しい時も。

ミーコはいつもそっと傍に居てくれた。

ただ隣に座っていてくれるだけで力をもらえた。

私は無事、母の言っていた私立中学に合格した。

しかし、中学2年生の冬休みに母は言った。

「中学校を辞めて、公立の方に行きなさい」

そんなの嫌だった。

だけど、母は私にもっと上の高校に行って欲しいと言った。

立派な人間になって欲しいと言った。

気持ちは嬉しかった。

私の将来を考えてくれていた。

私にはこの母の説得を拒否出来る言葉が思い付かなかった。

毎晩泣いていた。

新しい学校で虐めも受けた。

近所の大人たちは陰口を言い、私と話してくれなかった。

母を恨んでしまう自分が情けなかった。

先が見えなくて不安だった。

そんな頼りない私が心配だったのか、ミーコは20歳になった。

人間で言うと120歳だと聞いた。

中学3年生になり、ある模試で学年一位になった。

母も褒めてくれた。

私は満面の笑みでミーコに報告した。

ミーコの声が少し高く、明るく感じた。

私が一位になったことが広まると、虐めは段々少なくなって行った。

ミーコは段々弱って行った。

そしてある日、学校から帰ると小屋の中で死んでいた。

冷たかった…。

初めは全然涙が出てこなかった。

ミーコが居なくなるという実感が湧かなかった。

ミーコの墓を作っている間、私は何も話さなかった。

家に帰り落ち着くと、急に実感が湧いて来た。

涙が溢れ出した。

私はまたミーコの墓まで走って行き、言った。

「ミーコ、今までありがとう」

そして涙でぐちゃぐちゃな顔で笑った。

私はもう大丈夫だよ。

しっかり笑って生きて行くよ。

だから…安心してね。

天国で会えたら、ミーコと話がしたいな…。

今度は私がミーコの話を聞いてあげる。

私も楽しい話が出来るように今から頑張るね。

ミーコ、本当に大好きだよ。

関連記事

グラス

真っ直ぐな友へ

私たちの友情は、中学時代から始まりました。彼は素直で一途、趣味に没頭するタイプでした。中学、高校、大学と一緒の学校に通い、彼は私にとって唯一の親友でした。 大学4年になり、就職…

野球

懐かしの大声援

実家の母親は一人暮らしです。父親は健在ですが、6年前から施設に入っています。そのため、2年前に実家近くに家を買いました。しかし、私は県外で単身赴任中のため、私の家族が実家を頻繁に訪れ…

日記帳

赦しと再生の旋律

小学校の頃、私は虐められたことがある。 ふとしたことから、クラスのボス格女子とトラブルになった私。 その日以来、無視され続け、孤立した日々を送ることになった。 中学…

犬(フリー写真)

サチへ

前の飼い主の都合で初めて我が家に来た夜、お前は不安でずっと鳴いていたね。 最初、お前が我が家に慣れてくれるか心配だったけど、少しずつ心を開いてくれたね。 小学生の時、空き地…

民家

最後まで泣けなくて

僕は先月7月22日に父方の祖母を亡くしました。72歳。あと1週間生きていれば73歳でした。 普段から僕は祖母を「ばあば」と呼んでいました。高校生にもなってこんな呼び方恥ずかしい…

東京ドーム(フリー写真)

野球、ごめんね

幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。 学も無く技術も無かった母は、個人商店の手伝いのような仕事で生計を立てていた。 それでも当時住んでいた土地にはまだ人…

クリスマスプレゼント(フリー写真)

おとうさんのがんが治る薬

クリスマスが数日前に迫る中、6歳の娘は欲しい物を手紙に書き、窓際に置いていました。 夫と共に、キティちゃんの便箋を破らずに手紙を覗いてみると、こう書いてありました。 『サ…

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

結婚式の花嫁さん(フリー写真)

お父さんよりいい男

私の小さい頃の夢は、お父さんのお嫁さんになることでした。 お父さんに対して、嫌いと思ったことも嫌だと思ったこともありませんでした。 周りの友達よりもお父さんとは仲良しだった…

ディズニーランド(フリー写真)

ディズニーランドの星

ある日、ディズニーランドのインフォメーションに、一人の男性が暗い顔でやって来ました。 「あの…落とし物をしてしまって」 「どういったものでしょうか?」 「サイン帳です…