綺麗なお弁当
遠足の山の上で、小学三年生の柚が広げた弁当箱は、花でびっしりと埋まっていた。連絡船で働く父と、母の仏壇のりんどう。前の日の夕方に職員室へ来たあの子の一言を、私は…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
遠足の山の上で、小学三年生の柚が広げた弁当箱は、花でびっしりと埋まっていた。連絡船で働く父と、母の仏壇のりんどう。前の日の夕方に職員室へ来たあの子の一言を、私は…
別れ際にひどい言葉を残して去った彼が遺したのは、上映日誌のかたちをした一冊の日記でした。名画座の映写技師見習いだった彼が、消えゆく時間にひそかに綴った私への想い…
大阪から雪国の高校へ移った二年生の冬、私は訛りを笑われて口を閉じました。渡り廊下の隅で泣いていた私に声をかけたのは、いつも古いカメラを持つ七海さんです。フィルム…
造船の町に生きた父は、病に伏してなお息子の全力のキャッチボールを受けとめました。痩せた腕で一球も落とさず、痛みと引き換えに投げ返してくれた三十球。最後の手帳に遺…
雨の県道で運ばれてきた身元不明の女性。首のペンダントに入っていたのは、当直医である彼の幼い日の写真でした。三十年分の手紙と、一度も途切れなかった通帳が語る母の沈…
母子家庭で小さな惣菜屋を営みながら三人の子を育てた母。電気やガスが止まった夜も割烹着姿で笑い、夜は清掃の仕事も掛け持ちしていた母が、高校進学を諦めようとした私に…
生まれる前から家にいた白猫のミーコ。嵐の夜に父が拾ったその子は、漁師の父を持つ港町の少女のそばで、つらい日もうれしい日もいつも静かに寄り添い続けてくれました。一…
横浜へ単身赴任した私は、人混みが苦手だという母を、いつしかお義理でしか誘わなくなっていました。母の急逝後、遺品から出てきた横浜のガイドブック。赤鉛筆の線と、行き…
二十歳の誕生日、病床の父から手渡されたのは、亡き母が「父になる日のたくみへ」と綴った一通の手紙でした。母の願いと、父が黙って重ねた無数の犠牲。家族三人で過ごした…
三百二十円を握りしめ、入院する母へ贈り物を探して古書店を訪れた男の子あきら。棚の奥で見つけた古い星の絵本が、巡り巡って母から子へと想いを運びます。命の尊さと親子…
祖父にもらった青い硝子のかけらを、幼なじみの千夏は「彼にあげてくる」と言って持っていきました。春の前に千夏を見送ったあと、私は菓子の缶の底で、あの雪の朝になくし…
りんごの花が咲くころ、私はいつも父を思います。顔も写真も知らない父。仏壇の花立ては二つあるのに、花はいつも片方だけでした。中学二年の春、祖父に連れられて訪ねた畑…
感動する話をお探しの方に。山岳救助隊員だった無口な父は「情熱だけは持ち続けろ」とだけ言い遺し、雪の山で要救助者を庇って亡くなりました。押し入れに遺された私のサイ…
隣の家の章にいと二人で作った川の生きもの図鑑は、九十三番で止まったままでした。塀一枚向こうの窓を見ないようにして過ごした二年のあと、私の手に残されたのは絵のない…
まだ一年程前の事です。 彼女がこの世を去りました。病死です。 その彼女と出会ったのは7年前でした。彼女はその頃、大学1年生でした。 彼女には持病があり、 「あと…