宝物ボックス

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛 | 悲しい話

女性の後姿(フリー写真)

俺が中学2年生の時だった。

幼馴染で結構前から恋心も抱いていた、Kという女子が居た。

でもKは、俺の数倍格好良い男子と付き合っていた。俺が敵う相手ではなかった。

彼女自身がそれを伝えて来たので、とても複雑な気持ちだった。

それから時々、恋愛経験の無い俺に、色々な悩みを相談して来たりした。

俺は正直、話を聞くだけで嫌だったのだが…。

ある日、そこらにある人気の無い公園で、Kの相談に乗っていた。

その日は何となくペンダントを身に付けていた。

Kは彼氏との関係が少し危うい、ということを話していた。

話が一段落した時、Kが聞いて来た。

K「…そう言えば、そのペンダント何~?」

俺「ただの安物」

実際は、結構値の張るものだった。当時の宝物の一つだったし。

K「へぇ~」

Kはさり気なく後ろに回り込み、ササッと俺のペンダントを取った。

そして一言。

K「仲直りってことで、これ彼氏にあげてくるね♪」

何言ってんだこいつ。他人(しかも男)のお古を普通、彼氏に渡すか?

俺「おい、ちょっと待っ…」

マジで行った。

K「大丈夫!大切にしてくれるよ(笑)」

公園の出口でそう言いながら手を振って、消えて行った。

その後、Kが彼氏とどうなったかは、後日相談を受けた時に聞いてみたが話を逸らされた。

そして2ヶ月程が過ぎた時。

Kは車に轢かれて死んでしまった。

かなり急なことだったから、その事を聞いた時は全く動けなかった。

葬式の時も、まだ素直に現実を受け止められずに居た。

俺はどうしても気持ちを抑え切れず、Kのお母さんに

「Kの部屋を見せて欲しい」

と頼んだ。

幼馴染でよく遊んでいたからか、Kのお母さんは多少躊躇いながらも頷いてくれた。

Kの部屋に入ってみたら、どこか懐かしい香りがした。

思い出に耽りながら部屋を見ていると、タンスの上に箱があった。

『宝物ボックス』と汚い字で書かれていた。

恐らく、小さい頃からずっと使っていたのだろう。

そっと開けてみると、中にはちっちゃな消しゴムや鉛筆、友達とピースしている写真などが沢山入っていた。

その中に、俺から取って行ったあの時のペンダントがあった。

思わずドキッとした。

えっ…?

よく見るとさっきの消しゴムの一部や鉛筆の端っこには、俺の名前が薄っすらと残されていた。

もしかして…。

そう思った瞬間、急に涙が溢れて来た。

止められやしなかった。

関連記事

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

兄弟(フリー写真)

最強最高の兄ちゃん

両親は俺が中学2年生の時、交通事故で死んだ。 俺には4つ上の兄と、5つ下の妹が居る。 両親の死後、俺は母方の親戚に、妹は父方に引き取られて、兄は母方の祖父母と住んでいた。 …

カップル

傷跡を越えて

私は生まれながらに足に大きな痣があり、それが自分自身でもとても嫌いでした。その上、小学生の時に不注意で熱湯をひっくり返し、両足に深刻な火傷を負いました。痕は治療を重ねましたが、完全に…

青空(フリー写真)

命懸けの呼び掛け

宮城県南三陸町で、震災発生の際に住民へ避難を呼び掛け、多くの命を救った防災無線の音声が完全な形で残っていることが判りました。 亡くなられた町職員の遠藤未希さんの呼び掛けが全て収録…

お味噌汁(フリー写真)

これで仲直りしよう

昨日の朝、女房と喧嘩した。と言うか酷いことをした。 原因は、夜更かしして寝不足だった俺の寝起き悪さのせいだった。 「仕事行くの嫌だよな」 と呟く俺。 そこで女房…

手を繋ぐカップル(フリー写真)

彼女に宛てた手紙

ゆいへ なあ、俺もうダメみてぇだ。 何でだ? お前に出会うまでは死にたいぐらい毎日が退屈だった。 でも今は俺すげえ生きたい。 何で病気に勝てねえんだろ? …

手を繋ぐ夫婦(フリー写真)

最高の両親

ある女性が学生の頃に暴行されました。 男性不信になった彼女はずっと男性を避けていましたが、会社勤めをしているうちに、そんな彼女に熱烈にアタックしてくる人がいました。 その…

ビル

予期せぬ守り神

内定式で初めて彼女と出会った。彼女は私たちの同期だった。 彼女は聡明の代名詞のような人だった。学生時代の論文で賞を受けるほどの才女で、周囲からは期待の新星と見なされていた。 …

婚約指輪(フリー写真)

脳内フィアンセ

もう十年も前の話。 俺が京都の大学生だった頃、男二人、女二人の四人組でいつも一緒に遊んでいた。 そんな俺たちが四回生になり、めでたく全員就職先も決まった。 「もうこう…

シャム猫(フリー写真)

父親と猫のミル

家にはもう十年飼っていた猫が居たんだ。 家の前は昔、大きな広場で、その猫はその広場の片隅にある車の中で寝ていた子猫だった。 俺と姉ちゃんでその猫を家の庭まで連れ帰って来ちゃ…