水曜の朝だけ卵がふたつ減る
夜勤明けの水曜の朝だけ、私の冷蔵庫から卵がふたつ減る。三年のあいだ、朝ごはんを作りに来る後輩を私は鬱陶しく思っていた。どうせ憐れまれているのだと。彼女が島へ発つ…
夜勤明けの水曜の朝だけ、私の冷蔵庫から卵がふたつ減る。三年のあいだ、朝ごはんを作りに来る後輩を私は鬱陶しく思っていた。どうせ憐れまれているのだと。彼女が島へ発つ…
昭和三十六年、堤防工事の飯場から転校してきた幼なじみに、私は兄のお下がりの運動靴を貸しました。学級費が消えた日、私は教室で黙りました。四十年後、同じ堤防の改修工…
泣ける話。昭和の山頂測候所で三時間ごとの観測を続けた私と、雪の道を荷を担いで上がってきた歩荷の保坂さん。ひとりで冬を回したあの年、彼は三日に一度登ってきた。四十…
二十年前「あんたは向いとらん」と私を切り捨てた元上司が、山の集落で毎週わたしの魚を買い続けた。泣ける話の長編。捌かなくていいと言い続けた理由と、集落に人が並んで…
四十年前に私を無視した同級生が、二十年ものあいだ匿名で私の漉いた和紙を頼み続けていた。備考欄にはいつも同じ一行だけ。切り落とされる紙の耳こそが破れた本を継ぐ材料…
北関東の工業団地の町に転校してきた、日本語のたどたどしい同級生。わたしは一度だけ、彼を見捨てた。合唱コンクールの日、耳の聞こえないはずの彼の父が客席で立ち上がり…
三十年、引き出しの奥にしまい続けた黄楊の王将。親友との別れを恐れ、約束を捨てて故郷を離れた男が、危篤の報せに、幼馴染の彫った駒を手に三十年ぶりに帰郷する。盤の上…
雪深い湯治場に冬だけ来ていた、足を患う蛍さん。退屈な谷の子供たちに、蛍さんはお手玉と歌を教えてくれた。四十年後、宿を畳む日に妹が届けた一冊の手帳が明かす、本当に…
心に灯る感動の泣ける話。行くあてをなくした娘を拾ったのは、霧深い湖の老いた渡し守だった。夜明けごとに舟提灯を灯し、湖をわたり続けた爺さま。その灯りがある限り、人…
結婚して港町へ嫁いだわたしは、年に一度の盆だけ、幼なじみの八重が営む時計店に腕時計を預けに帰った。「少し遅れるんよ」という小さな嘘。八重が遺した修理伝票の控えに…
いつか島へ行こう——七海と交わした親友との約束を、私は仕事を口実に先延ばしにし続けた。彼女がいなくなった夏、鳴らさないまま仕舞っていた水色の風鈴を抱え、私は初め…
右手を怪我して誰にも言えなかった大工。泣ける話──25年来の仕事仲間は、鑿の音が変わったその日から気づいていた。職人の誇りと、言葉にしない友情の実話。…
親友が逝った後、遺品整理に訪れた古書店で「松岡へ」と書かれた紙袋を見つけた。中には37年間、俺のために選ばれ続けた15冊の本が入っていた。口下手だった彼が、ずっ…
七年前に喧嘩別れした幼馴染が先月他界した。遺品として届いた二十四年前の使い切りカメラを現像すると、最後の五枚に、病床の自撮りと、冬の海と、私への謝罪のメッセージ…
高校入学直後の事故で走れなくなった幼馴染。言葉をかけられないまま疎遠になった男が、二十年後に整備工場で再会する。トランクの中の二足のシューズが、長い沈黙をほどい…