書けなかった婚姻届
生花店で出会った五つ年上の彼女は、胸の手術の傷をひそかに隠して、私を遠ざけ続けました。書けなかった婚姻届と、押し花の勿忘草に託された最後の手紙。忘れてほしいと願…
思い切り泣きたいとき、この場所へ来てください。大切な人を失ったこと、届かなかった気持ち、間に合わなかった言葉——悲しい話には、悲しいからこそ伝わる本当のことが詰まっています。号泣できる実話風短編を集めました。
生花店で出会った五つ年上の彼女は、胸の手術の傷をひそかに隠して、私を遠ざけ続けました。書けなかった婚姻届と、押し花の勿忘草に託された最後の手紙。忘れてほしいと願…
港町の小学校で受け持った九歳の柚は、遠足の弁当箱にりんどうを隙間なく並べて持ってきた。白いご飯と焦げた卵焼きを、あの子は仏壇の花で隠していたのだ。母を見送った、…
手を繋ぐとき必ず手首を掴む祖母には、七十年間誰にも言えない夏の記憶がありました。停電の夜の蝋燭の下で初めて語られた、離してしまった妹の手と、届かなかった一杯の水…
南の島の古い桟橋で、日本の歌を口ずさむ老人と出会った。太平洋戦争のさなか、共に陣地を築いた島の若者たちが、日本兵の隊長から浴びせられた一言の暴言。裏切られた——…
閉館の貼り紙が出た古い名画座で、私は別れた彼が遺した上映日誌を開いた。映写室の熱、雷の夜のオールナイト、病室の白い天井。鉛筆の特集リストは九本で止まり、十本目だ…
大阪から雪国の高校へ移った二年生の冬、私は訛りを笑われて口を閉じました。渡り廊下の隅で泣いていた私に声をかけたのは、いつも古いカメラを持つ七海さんです。フィルム…
雨の県道で倒れた身元不明の女性の首に、錆びた留め金のペンダントが下がっていた。ピンセットでこじ開けた蓋の中の写真を、当直医の佐伯先生は知っていた。結婚式まであと…
白血病で余命わずかとなった二十七歳の船大工と、毎日欠かさず病室へ通い続けた恋人。港町の病室で最後の時を過ごす二人の姿を、当時十六歳だった私はそっと見つめていまし…
体の弱い母が、震える手で毎朝作ってくれた見映えの悪いお弁当。恥ずかしさからそれを捨て続けた娘が、母を亡くしたあとに見つけた一冊の日記。その最後の一行に綴られてい…
祖父にもらった青い硝子のかけらを、幼なじみの千夏は「彼にあげてくる」と言って持っていきました。春の前に千夏を見送ったあと、私は菓子の缶の底で、あの雪の朝になくし…
隣の家の章にいと二人で作った川の生きもの図鑑は、九十三番で止まったままでした。塀一枚向こうの窓を見ないようにして過ごした二年のあと、私の手に残されたのは絵のない…
まだ一年程前の事です。 彼女がこの世を去りました。病死です。 その彼女と出会ったのは7年前でした。彼女はその頃、大学1年生でした。 彼女には持病があり、 「あと…
泣ける話。瀬戸内の港町の古い文化住宅で出会った、隣の部屋の小さな女の子。お腹を空かせた私に握ってくれた、塩気のないおにぎりの本当の意味を、私はずっとあとになって…
事故で逝った親友から、命日の朝に届いた、たった一通のメール。指定された公園のベンチで一人過ごした夕暮れが、僕の家族の命を救いました。終点の海を夢見た二人の友情と…
両親の離婚で一人ぼっちだった小学生の私に、絵本を抱えて話しかけてくれた、一つ年下の女の子。やがて離れてしまった私と、彼女の突然の別れを描く泣ける話です。冷たい頬…