嬉しそうな笑顔を

公開日: ちょっと切ない話 | 仕事 | 悲しい話

ゲームセンター(フリー写真)

うちのゲーセンに、毎日のように来ていたお前。

最近全然見ないと思ったら、やっと理由が判ったよ。

この前、お前の母ちゃんが便箋を持って挨拶に来たんだよ。

こちらで良くお世話になっていたみたいで、ってよ。

白血病かよ。

一ヶ月前まですげー元気そうだったじゃねえかよ。

お前がいつもやってたDJシミュレーションゲームは、お前が居なくなって以来、誰もやってるところ見ねーよ。

いつもスコアはデフォルトのまま。

何せお前一人で、毎日飽きもせずスコアを埋めてたからな。

一番笑えるのがウチの店長。

インカム悪い台はさっさと撤去する人間なのに、その台はお前が来ないと分かって一ヶ月近く経つのに、撤去の話が全然挙がんねーの。

それどころか、そのゲームのメンテを毎日欠かさずやってんだよ。

鍵盤やターンテーブルの調子を確かめて「良しっ」とか言ってんの。

良しも何も、誰もやってねーんだから、そうそう調子が狂う訳ねーよ。

だから、さっさと戻って来いよ。

ワンモアエキストラ抜けた時の嬉しそうな笑顔を見せてくれよ。

有り得ない発狂譜面をスイスイ捌くお前が、病気で死んだなんて信じられねーんだよ。

今までありがとう、としか書いてない手紙なんか要らねーんだよ。

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