Saga 2のオープニングが流れるたび

ゲームボーイ

俺さ。

生まれた時から、ひどい小児喘息だったんだ。

※

夜中に苦しくなって、かーちゃんを起こして病院へ連れて行ってもらう。

そんなことが、しょっちゅうだった。

※

小学校に上がる頃には、さらに病状が悪くなっていた。

体育には出られない。

外でみんなと遊ぶことすら、できない。

俺の身体は、いつも「普通」から少しだけ外れていた。

※

小五になった頃には、ほとんど毎日病院に通って吸入をするほど悪化して。

結局、そのまま三週間の入院になった。

※

病室は四人部屋だった。

同室は、おばあちゃんが一人。

おじさんが一人。

そしてもう一人、俺と同い年くらいの女の子がいた。

※

俺は昔から、すごい人見知りで。

おまけに、信じられないくらい照れ屋だった。

※

だから同室の人たちとうまく話せず、ほとんど一人で過ごしていた。

勉強をするか。

ゲームボーイをやるか。

それだけ。

※

家から持ってきたソフトは「Saga2」。

もう一度クリアしたやつだったけど、暇すぎて、毎日それを起動していた。

※

入院して一週間くらい経った頃。

俺がゲームボーイをやっている時に、気づいたんだ。

同室の女の子が、じーっと俺の方を見ていることに。

※

俺が彼女を見ると、慌てて目を逸らす。

でも、また気づくと見ている。

※

もしかして、やってみたいのかな。

そう思って、俺は勇気を出して声をかけた。

※

「良かったら、これ、貸そうか?」

※

すると彼女は、ぱっと目を輝かせて言った。

「いいの?」

※

俺は照れ隠しに、ぶっきらぼうに答えた。

「もう飽きたからな」

※

でも、本当は違った。

誰かに貸すのは少し怖かったし、でも嬉しかった。

俺の世界に、誰かが入ってきてくれるのが。

※

彼女は案の定、操作が分からないらしくて。

画面とにらめっこしながら、何度も同じところで止まってしまう。

※

だから俺は、操作を教えながら一緒に進めることにした。

※

パーティーは四人。

主人公は、人間・男。

名前は「リョータ」。

俺の名前を入れた。

※

仲間に、人間・女。

名前は「さやか」。

彼女の名前を入れた。

※

残りの二人には、エスパーガールとロボットを入れて。

それぞれ同室のおばあちゃんと、おじさんの名前をつけた。

※

そうやって、ゲームの中でも同じ部屋の四人が並んだ。

妙に、それが嬉しかった。

※

それから俺たちは、どんどん仲良くなった。

※

二人でゲームボーイをやるだけじゃなく。

いろんな話もするようになった。

※

学校のこと。

家族のこと。

好きな音楽のこと。

近づいてくる夏休みのこと。

※

苦しくて仕方なかったはずの入院生活が。

その頃から、少しだけ「時間」になった。

ただ耐えるだけじゃない時間に変わった。

※

そして、あっという間に俺の退院の日が来た。

※

看護師さんも、同室のおじさんも、おばあちゃんも。

みんな口々に「おめでとう」と言ってくれた。

※

その中で。

彼女だけが、泣いていた。

※

それを見た瞬間、俺も泣きそうになった。

胸の奥が熱くなって、喉がつまった。

※

でも、俺は必死に堪えた。

子どもなりに、格好つけたかったんだと思う。

※

「おまえ、退院するまでこれ借してやるよ。

退院したら、連絡くれよな」

そう言って、俺はゲームボーイとSaga2を、そのまま置いてきた。

※

本当は、もっと何か言いたかった。

ありがとうとか。

寂しいとか。

また絶対会おうとか。

※

でも言えなかった。

俺はそういうやつだった。

※

それから何度も、お見舞いに行こうと思った。

本当に、何度も。

※

でも、いざ行こうとすると、妙に照れくさくて。

何を話せばいいか分からなくて。

結局、一度も行けなかった。

※

連絡がないまま、一年半が過ぎた。

俺は小学校を卒業する頃になった。

※

せめて卒業前に、もう一度会っておきたい。

そう思って、意を決して病院へ行くことにした。

※

病室に行った。

でも、彼女はいなかった。

病室の入口にある名前の欄にも、さやかの名前はなかった。

※

もうとっくに退院したのかな。

そう思って、ナースセンターで聞いてみた。

※

看護師さんは、はっきり言わずに、うまくはぐらかした。

「遠い所に行ったのよ」

そんな言い方だった。

※

でも俺は、小六だった。

そこまでバカじゃない。

※

その場の空気と。

後ろにいた看護師さんが泣き出したのを見て。

全部、分かった。

※

頭が真っ白になって。

身体の中の音が消えて。

俺はその場で、立っているのがやっとだった。

※

すると看護師さんが、ふと思い出したように言った。

※

「ああ、そういえば。

さやかちゃんからね。

リョータ君が来たら渡しておいて、って言われた物があるの」

※

渡されたのは。

俺が貸してあげたゲームボーイと、Saga2だった。

※

俺はそれを受け取って、家に帰った。

※

帰るなり、飯も食わずに自分の部屋へ行った。

暗い部屋で、布団も敷かないまま、座り込んで。

ゲームボーイのスイッチを入れた。

※

残っていたデータは、やたらレベルの低いデータだった。

最初から始めて、すぐ飽きたのかな。

そう思いながら、ロードしてみた。

※

画面に出てきた、パーティー四人の名前が。

こうなっていた。

※

「リョータ」

「いろいろ」

「ありがと」

「バイバイ」

※

声が出なかった。

※

あの子は、最後まで俺の名前を残してくれて。

言いたかった言葉を、そこに詰めて。

たった四人分の名前欄に、精一杯の別れを置いていった。

※

俺はその夜、何時間泣いたのか覚えていない。

※

今でも。

Saga2のオープニングの曲を聞くと、涙が出る。

※

お見舞い、行ってあげられなくて、ごめんな。

照れくささなんかじゃなく。

ちゃんと会いに行けばよかった。

※

だけど、あのデータがある限り。

あの子が俺にくれた時間は、消えない。

俺の中で、ずっと生きている。

泣ける話・感動する実話まとめ|ラクリマ

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