父の唯一の楽しみ
私の家系は少し複雑な家庭で、父と母は離婚して別々に暮らしています。 私は三姉妹の末っ子で、父に会いに行くのも私だけでした。 姉二人なんて、父と十年近く会っていま…
父親の話は、いつも不器用さの中に愛情があります。一緒に過ごした時間、言えなかった「ありがとう」、父になって初めてわかったこと——お父さんにまつわる泣ける実話風短編を集めました。
私の家系は少し複雑な家庭で、父と母は離婚して別々に暮らしています。 私は三姉妹の末っ子で、父に会いに行くのも私だけでした。 姉二人なんて、父と十年近く会っていま…
耳の聞こえない私の手話には、左右が入れ替わる癖がある。教わった父が、図書館の本と洗面所の鏡だけで覚えたからだ。鏡の前の手話しか知らなかった父の三年間を、私は十七…
父の作業台の抽斗には、売り物にしない蝋細工の膳が、年にひとつずつ増えていた。失敗作だと聞かされていたので、抽斗を開けたのは十三回忌の今日が初めてだ。十七の膳に書…
県外への進学を、父だけが最後まで大反対しました。理由は一度も言ってくれません。勝手に決めて出て行った娘が、父の車のダッシュボードから折りたたんだ地図を見つけたの…
私の両親は私が小さい頃に離婚し、私はずっとお父さんと生きて来た。 お母さんとお父さん。 どっちに行こうか迷っていた時、お父さんは 「ここに残りなよ」 と言ってく…
母が送ってくる青さのりの袋の口には、毎年ちがう本数の輪ゴムが巻いてありました。四万十の冬の川に一人で立ち続けた母と、大阪で働き続けてきた息子。あと何日会えるのか…
私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。 家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。 ※ 私が…
大学が決まり、一人暮らしを始める前日の日の事。 親父が時計をくれた。 金ピカの趣味の悪そうな時計だった。 「金に困ったら質に入れろ。多少、金にはなるだろうから」…
私の両親は小さな喫茶店を営んでいます。 私はそこの一人娘で、父は中卒で学歴はありませんが、とても真面目な人でした。 バブルが弾けて景気が悪化して来た頃、父は仕事…
いまいち仲が良くなかった父が、入院する前夜にワインを取り出し、 「まあいつまで入院するか分からないけど、一応、別れの杯だ」 なんて冗談めかして言ったんだ。 こん…
大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。 8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。 泥だらけになって遊びから帰って来ると、…
ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気…
小学1年生の秋に、母親が男を作って家を出て行き、俺は親父の飯で育てられた。 当時は親父の下手な料理が嫌で堪らず、また母親が突然居なくなった寂しさも相まって、俺は…
背中を向けたまま何も言わない父でした。合格の日に病室から掛かってきた一本の電話と、物置のブルーシートの下で五年ものあいだ鳴りつづけていた小さな音の正体。浜松のピ…
尾道の坂下の小さなパン屋に毎週日曜、若い父と三歳の男の子が来る。注文はクリームパンと『おかーちゃんのぶん』。眠り続ける母への贈り物と思われたパンに隠された、三歳…