曲がったストローを持つ男の子
病院の売店で、毎週いちご牛乳とストロー二本を頼む八歳の男の子。曲がったストローを作る小さな手を見て、私は彼の母親を疑っていた。その理由を知ったのは、雨で品切れに…
家族のことを書いた話は、どれも胸に刺さります。当たり前すぎて気づかなかった愛情、不器用すぎて伝わらなかった気持ち、もう会えない人のことを思い出す瞬間。父、母、子供、祖父母——家族にまつわる感動する話をお届けします。
病院の売店で、毎週いちご牛乳とストロー二本を頼む八歳の男の子。曲がったストローを作る小さな手を見て、私は彼の母親を疑っていた。その理由を知ったのは、雨で品切れに…
検針票の裏に、志津子さんは毎月、鉛筆で返事をくれた。使用量が倍になった冬、二月の雨の午後に見たのは、満杯のまま抜かれていく湯と、指二本ぶんだけ開いた浴室の小窓だ…
梅雨の晴れ間、祖母の家の納戸で、僕の名前が貼られた瓶が九本見つかった。祖母の梅干しは年ごとに塩の数字が減っていて、ノートには、僕が電話で言った一言への返事が、十…
駅の改札の猫は、降りてくる人の顔を見ない。見るのは足元だけだった。毎週木曜の夜、猫が立ち上がる足音の主を、窓口の小窓から足元しか見えない俺は三か月、知らなかった…
結婚した年から、義母の雑巾が毎年十二月に一枚ずつ届いた。使い古しの押しつけだと思い、引き出しにしまい続けた七年。義母が骨折して入院した日、裁縫箱の底に、十二の四…
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
閉店を相談しに帰省した商店街の理容室で、八十一歳の祖父は毎朝十時に空の椅子へ白い布を掛けていた。祖父の予約表に十九年書かれ続けた名前と、その横の小さな点。父を見…
学童の閉め作業のたび、三年生の颯くんはブラインドの羽根を一枚だけ開けて帰っていった。私は規則どおり、毎晩それを閉め直していた。理由を知ったのは、寒い冬の朝、まだ…
日曜八時の電話は、八時ちょうどに鳴って一分で切れる。ご飯は食べたか、ならええ、ほな。十一年それだけの電話を、俺は三回に一回わざと取らなかった。ある日曜、実家の勝…
卵焼きの形も、割烹着の匂いも、母は何も言わずに残していた。台所と道具と遅れて届いた言葉から、母の泣ける話を十四編ならべました。弁当や携帯、ボタン缶といった小さな…
二杯目はいらない、と言いながら、私は毎月、父が取ってくる二杯目のメロンソーダを半分も飲まなかった。残りを飲み干す父が恥ずかしくて、会うのをやめた。十四年後、結婚…
毎年十一月、祖母から十一個の梨が届いた。毎年、箱の新聞紙を丸めて捨てながら、出来損ないの木の梨だと思っていた。俺の梨の木は、生まれた年に裂けた「半分の木」だと、…
園バスの運転手が対向の白い冷凍車へ返してきた二回のパッシング。年中の湊くんは朝に「ただいま」、夕方に「いってきます」と言う。言い間違いだと思っていた私は、ライト…
白内障の手術だと言って、八十三の祖父が俺の1Kに三週間泊まりに来た。食卓で向かい合うと、祖父の目はいつも俺の右耳の横にある。仕事を辞めたことを隠している俺を、ま…
顔合わせの席で、継母が婚約者の祖母と土佐の言葉で笑い合った。少し高くて語尾の跳ねる、私の知らない声だった。12歳の春に「この家で、そのしゃべり方しないで」と言っ…