一日で失くした腕時計
二十歳の誕生日に、父から腕時計をプレゼントされた。 箱を開けたときの、少し得意そうな父の顔を今でもはっきり覚えている。 私は夏生まれだ。 翌日から、友人たちと海…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
二十歳の誕生日に、父から腕時計をプレゼントされた。 箱を開けたときの、少し得意そうな父の顔を今でもはっきり覚えている。 私は夏生まれだ。 翌日から、友人たちと海…
料理のできない二十六歳の父と、五歳の息子。嫁が旅立って一ヶ月、冷凍庫を開けると、丸い字の札が貼られたタッパーがぎっしり並んでいた。最後に残った引き出しの蓋に書か…
日曜の昼下がり、久しぶりにミスドへ寄ったときのことだ。 ※ 注文を済ませ席につくと、背中越しのすぐ後ろに、若い父親と三歳くらいの男の子が座った。くりくりの目が印…
昨日、恋人が死んだ。 長い闘病の末、静かに息を引き取った。 通夜が終わり、病院に残っていた荷物を取りに行った時、その中に、俺宛ての手紙が入っていた。 白い封筒。…
ある日、おふくろから一本の電話があった。 「お父さんが……死んでたって」 死んだ、じゃなくて――“死んでた”? 電話の向こうの母の声は、静かで現実味がなかった。…
文章に自信はないけれど、少しだけ私の話を聞いてください。 二十四歳のとき、私は人生のどん底にいました。 六年付き合い、婚約までしていた彼に裏切られたのです。相手…
母が家を出ていったのは、小学一年の秋のことだった。 男を作って去っていった母の背中を、幼い俺はただ呆然と見送るしかなかった。 その日から、父の作る不器用な料理で…
母が24歳、父が26歳の時、僕は6歳で両親の離婚を経験した。 母は若くして妊娠し、生まれた僕は望まれた存在ではなかった。 母には別の男が、父には別の女がいて、二…
実家の猫は、赤ん坊の頃に空き地で見つけられた。 その小さな体は目も潰れて放置され、声を限りに泣き叫んでいた。 あまりに悲惨な姿に、最初は正直、触ることすら躊躇っ…
病気を隠して「好きな人が出来た」と別れの手紙を書いた年上の彼女。十年たった今も、彼女の手紙は引き出しの奥にあります。バイト先で始まった恋と、婚姻届と一通の便箋が…
娘の振袖を選ぶ呉服屋で、ふいによみがえった母のはしゃいだ姿。ほとんど家にいなかった私に、母が一度だけ会社へかけてきた電話の意味を、親の心を知る時がきて、ようやく…
十数年前、妻が突然この世を去った。 赴任先の地方都市で、知り合いもいない土地。 最期の最期まで、彼女は三歳の娘のことを心配し、俺に「ごめんね」と謝り続けながら、…
もう数年前のことになります。 私が小学5年生の時、我が家に一匹のラブラドールがやってきました。 母がその子に名付けた名前は「サーブ」。 大きな瞳でこちらをじっと…
闘病中の彼女のそばにいたくて、私は会社を辞め、「リストラされた」と嘘をつきました。毎日リンゴをすりおろした病室の日々のあと、葬儀の翌日に渡された二通の手紙には、…
年下の彼氏がいた。 私が三十歳で、彼は二十二歳。 大学生だった彼は、社会人の私にどこか遠慮があるようで、付き合って三年が経っても、将来の話なんて一度もしたことが…