
日曜の昼下がり、久しぶりにミスドへ寄ったときのことだ。
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注文を済ませ席につくと、背中越しのすぐ後ろに、若い父親と三歳くらいの男の子が座った。
くりくりの目が印象的な、本当にかわいらしい子だった。
ふたりの姿は直接見えない。
だが、店内の静けさの中、肩越しに聞こえてきた会話が、妙にはっきり耳に届いた。
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子「どーなつ、おいしいねぇ」
父「ん、美味しいね」
小さな声が弾んでいる。
父親の声は穏やかで低い。落ち着いているのに、どこか疲れが滲んでいた。
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子「おかーちゃんにも、あげたいねぇ」
父「そだね」
子「おかーちゃん、いつおっき?」
父親が少しだけ言葉に詰まる気配がした。
父「んー……お母ちゃんは、とっても疲れてるから。いつ起きるか分かんないな」
子「そっかぁ……」
その「そっかぁ」は、あまりにも素直で、あまりにも小さかった。
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子「○○(自分の名前)、ゆーえんちいきたい!」
父「ん?」
子「ゆーえんちいって、かんらんしゃ!
おかーちゃんいっしょ!」
父「……うん。お母ちゃんと行きたいね。三人で。
お母ちゃんが起きたら、みんなで行こうな」
一瞬だけ、父親の声が揺れた。
涙を飲み込むような、喉の奥が震える音がした。
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子「おとーちゃん? だいじょうぶ?
えーんえーん?」
父「大丈夫。……えーんえーんしてないよ。
お父ちゃんは大丈夫だから」
その返事はあまりにも優しくて、
でも、あまりにも胸が痛む声だった。
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もう、こちらまで涙を堪えるのに必死だった。
事情は分からない。
母親は病気なのか、事故なのか、あるいは――。
しかし、あのときの男の子の声の純粋さと、
父親のかすかな震えだけは、
どうしても忘れられない。
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どうか、この小さな親子に
これから先、温かい時間がたくさん訪れますように。
三人で観覧車に乗る、その日が――
ちゃんと来ますように。