蛍は亡くなった人の魂
蛍は亡くなった人の魂だと父は言いました。言葉少なな川漁師の父と、家を出て藍染職人になった娘。父が繕い続けた竹の火籠と、初盆の夜に籠へとまった一匹の蛍が、ついに交…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
蛍は亡くなった人の魂だと父は言いました。言葉少なな川漁師の父と、家を出て藍染職人になった娘。父が繕い続けた竹の火籠と、初盆の夜に籠へとまった一匹の蛍が、ついに交…
生花店で出会った五つ年上の彼女は、胸の手術の傷をひそかに隠して、私を遠ざけ続けました。書けなかった婚姻届と、押し花の勿忘草に託された最後の手紙。忘れてほしいと願…
遠足の山の上で、小学三年生の柚が広げた弁当箱は、花でびっしりと埋まっていた。連絡船で働く父と、母の仏壇のりんどう。前の日の夕方に職員室へ来たあの子の一言を、私は…
別れ際にひどい言葉を残して去った彼が遺したのは、上映日誌のかたちをした一冊の日記でした。名画座の映写技師見習いだった彼が、消えゆく時間にひそかに綴った私への想い…
雪国の高校へ転校し、訛りをからかわれて孤立していた私を救ったのは、写真部の彼女がくれた「ほら、笑いなよ」の一言でした。卒業式の三日前に届いた突然の訃報と、彼女が…
造船の町に生きた父は、病に伏してなお息子の全力のキャッチボールを受けとめました。痩せた腕で一球も落とさず、痛みと引き換えに投げ返してくれた三十球。最後の手帳に遺…
雨の県道で運ばれてきた身元不明の女性。首のペンダントに入っていたのは、当直医である彼の幼い日の写真でした。三十年分の手紙と、一度も途切れなかった通帳が語る母の沈…
母子家庭で小さな惣菜屋を営みながら三人の子を育てた母。電気やガスが止まった夜も割烹着姿で笑い、夜は清掃の仕事も掛け持ちしていた母が、高校進学を諦めようとした私に…
生まれる前から家にいた白猫のミーコ。嵐の夜に父が拾ったその子は、漁師の父を持つ港町の少女のそばで、つらい日もうれしい日もいつも静かに寄り添い続けてくれました。一…
横浜へ単身赴任した私は、人混みが苦手だという母を、いつしかお義理でしか誘わなくなっていました。母の急逝後、遺品から出てきた横浜のガイドブック。赤鉛筆の線と、行き…
二十歳の誕生日、病床の父から手渡されたのは、亡き母が「父になる日のたくみへ」と綴った一通の手紙でした。母の願いと、父が黙って重ねた無数の犠牲。家族三人で過ごした…
三百二十円を握りしめ、入院する母へ贈り物を探して古書店を訪れた男の子あきら。棚の奥で見つけた古い星の絵本が、巡り巡って母から子へと想いを運びます。命の尊さと親子…
海に磨かれた青い硝子のお守りを、幼馴染の千夏はいたずらのように持ち去りました。彼女の死後に開いた宝物箱と、投函されなかった手紙の束が、言えなかった互いの想いを静…
父の顔を知らずに育った私は、母がなぜ父を語ろうとしないのかを、長いあいだ誤解していました。りんご畑の町の墓の前で知った、母の沈黙の奥に隠された涙。亡き父と、今を…
感動する話をお探しの方に。山岳救助隊員だった無口な父は「情熱だけは持ち続けろ」とだけ言い遺し、雪の山で要救助者を庇って亡くなりました。押し入れに遺された私のサイ…