タグ: 感動する話

みんな同じ

俺の娘は四つ。妻は娘を産んですぐ家を出て、母の話を避け続けてきた。ある夕方の電車で、片腕のない人を指さした女の子に、その母親が静かに語りかける。みんな同じじゃな…

坂の上と胸ポケットの観戦パス

坂の途中の小さな自転車店。決して人に頭を下げない店主が一度だけ私に頼んだのが、胸ポケットの観戦パスでした。雨の夜に果たされなかった約束と、三十年後の面接室でその…

保護されたメールの一行

父の四十九日が過ぎた頃、母が簞笥の奥から古いガラケーを出してきた。受信一覧のいちばん下に、保護されたメールが一通だけ残っていた。九年前の三月十日、送信時刻は朝の…

犬からの10のお願い

雨の夜に拾った雑種の子犬ナナと過ごした十四年。会社を辞め塞ぎ込んだ私を救い、家族の一員となったナナの一生と、最後の散歩、看取った日を描く泣ける話。口がきけなかっ…

天国のママへ

妻を病で亡くし、四歳の息子と二人になった父。ある日、息子が急に「ひらがなを教えて」と言い出します。その理由を保育園の先生から電話で聞かされたとき、父は台所の床に…

フクが運んだ福

借金とすれ違いでバラバラだった我が家に、中学生の妹が雨の夜に抱えて帰った一匹の雑種犬フク。冷えきった家族を真ん中で結び直し、皆を見送るたびに遠吠えしたフクと過ご…

空き缶の活字は崩さないで

活版の工房で十年、私は鉛の文字ばかり拾ってきました。父親を見送った妻が声を失った一年、私が夜ごと組んだ言葉を、妻は空き缶の活字としてひとつずつ集めていました。蓋…

ほどこしと親切

昭和五十年代、紡績の町に来た巡業サーカス。切符売場の前で、七人の子を連れた父親が立ち尽くした夜の感動する話です。左官職人の父が見せた、たった一言の優しさ――「ポ…

西日の部屋で振り返った妻

静岡・浜松でピアノの響板を作る工場で出会った妻は、生まれたときから音を知らないろう者でした。西日の部屋で背後からそっと告げた、聞こえるはずのない言葉。それでも妻…

父が渡した十二年分の通帳

富山・高岡の銅器着色師だった父は、給料日の晩だけ湯呑みに酒を注ぎ、それを飲まずに置く人でした。結婚の報告に帰った日、ぶっきらぼうに差し出された通帳の入金欄は、十…

一巻き目を教えなかった人

三重・尾鷲の港町にある椅子六脚の定食屋つばめ食堂。七十八歳のおかみさんは、だし巻きを焼くとき一巻き目だけ菜箸を右から左へ持ち替えます。半世紀のあいだ誰にも教えな…