私がまだ小学2年生の頃、継母が父の後妻として一緒に住むことになった。 特に苛められたとかそういうことは無かったのだけど、何だか馴染めなくて、いつまで経っても「お…
続きを読む
塾を辞めた高校生だった僕に、坂の途中の珈琲店の店長さんは「うち、すぐそこだから」と言って閉店後の席を貸してくれました。二年後に知ったその嘘の本当の重さと、十四年…
続きを読む
十七歳の誕生日に、育ての母だと知らされた私は、母を「おばさん」と呼び、差し出された手紙さえ、その場で丸めて捨ててしまいました。その翌日、母は突然この世を去ります…
続きを読む
社会人になって初めての給料で母に何か贈りたかったのに、素直になれず「こんな安物かよ」と口走ってしまった三千円のエプロン。三年後に見つけた家計簿の余白が、その値札…
続きを読む
父の出て行った家で、母は市場と総菜屋を掛け持ちして俺を育てた。曲がった俺が過ちを犯した日も、家庭裁判所の帰り道も、母は決して泣かなかった。二十歳の冬、一枚の合格…
続きを読む
仏壇の隅にある一回り小さい位牌。生まれる前に亡くなった兄のものだと聞かされ、俺はその存在をうっとうしいと思っていた。母と怒鳴り合った雨の日、頭の中に響いた舌足ら…
続きを読む
三年ぶりに帰省した俺は、家の事情で母の隣に布団を並べることになった。布団に染みた陽の匂いの奥にあった薄荷と糸の匂いが、忘れていた記憶を呼び覚ます。指のあかぎれ、…
続きを読む
恥ずかしいと突き返した、母の手作りの弁当。その毎朝の三百円の裏で、母が自分の昼食をそっと抜いていたことを、私が知ったのは十年も後のことでした。空腹の夜にかけた一…
続きを読む
四つで母を亡くした俺に残った記憶は、ブランコの鎖の音だけだった。右がカ、左がコ。三十年後、親父が病室でこぼした一言と、押入れの缶から出てきた一枚の短冊が、あの夕…
続きを読む
反抗期の朝、私は母に「産んでくれなんて頼んだ覚えはない」と言い放った。母は言い返さず、ただ黙って夕飯を作った。大学入学の日、戸籍抄本に記されていた「養女」の二文…
続きを読む
祖母の遺品の缶から、一本の木の枝が出てきました。村に伝わる背負い坂の言い伝えと、施設へ向かう車の窓から痩せた腕を伸ばし続けた祖母。親が最後まで口にしなかったこと…
続きを読む
蛍は亡くなった人の魂だと父は言いました。言葉少なな川漁師の父と、家を出て藍染職人になった娘。父が繕い続けた竹の火籠と、初盆の夜に籠へとまった一匹の蛍が、ついに交…
続きを読む
付き合って三年の彼女に、とつぜん別れを告げられました。理由は「ほかに好きな人ができた」。けれど半年後、私はその嘘の裏に隠された真実を知ります。時計修理士の私と、…
続きを読む
生花店で出会った五つ年上の彼女は、胸の手術の傷をひそかに隠して、私を遠ざけ続けました。書けなかった婚姻届と、押し花の勿忘草に託された最後の手紙。忘れてほしいと願…
続きを読む
遠足の山の上で、小学三年生の柚が広げた弁当箱は、花でびっしりと埋まっていた。連絡船で働く父と、母の仏壇のりんどう。前の日の夕方に職員室へ来たあの子の一言を、私は…
続きを読む