お豆の煮方
交通安全週間のある日、母から二枚のプリントを渡されました。 そのプリントには交通事故についての注意などが書いてあり、その中には実際にあった話が書いてありました。…
思い切り泣きたいとき、この場所へ来てください。大切な人を失ったこと、届かなかった気持ち、間に合わなかった言葉——悲しい話には、悲しいからこそ伝わる本当のことが詰まっています。号泣できる実話風短編を集めました。
交通安全週間のある日、母から二枚のプリントを渡されました。 そのプリントには交通事故についての注意などが書いてあり、その中には実際にあった話が書いてありました。…
宮城県南三陸町で、震災発生の際に住民へ避難を呼び掛け、多くの命を救った防災無線の音声が完全な形で残っていることが判りました。 亡くなられた町職員の遠藤未希さんの…
今から6年前の話です。 僕がまだ十代で、携帯電話も普及しておらずポケベル全盛期の時代の事です。 僕はその頃、高校を出て働いていたのですが、二つ年上の女性と付き合…
自衛隊の災害派遣でひと月を過ごした避難所。体育館の壁に増え続けた数字を書いていたのは、初日にトラックへ石を投げた二十歳の青年でした。撤収の日に拡声器を握った彼と…
秋田・大館の曲げわっぱ工房で、妻は樺縫いの最後のひと針だけを、毎晩かならず翌朝へ残していました。妻を失った冬、四つになる娘の一言と、老いた職人の静かな証言が、そ…
一歳半で母を見送った友人は、母の顔も声も覚えていません。それでも、眠る子の背中を二回叩いてひとつ撫でる手つきだけが、二十一年後の今も彼女の手に残っていました。金…
二月の児島、学生服の裁断室に妹から電話が入った。上京して九年、家族を呼ぶと言った妹は、病室で何度も「迷惑掛けてゴメンね」と繰り返した。妹のゴメンねに息をひとつ吸…
セメントの町で三交替に就いた兄は、夜勤明けの朝、必ず弟の運動靴を爪先だけ外へ向けて直してから上がりました。その小さな癖の本当の意味と、閉めた覚えのない扉。半年前…
祖母は六十年、毎朝仏壇に向かって貴様と呼びかけていました。悪態だと思っていたその一語の意味が、北満の守備隊にいた祖父の残した一枚の薬包紙と最後の軍事郵便で反転し…
浜に流れ着いた浮子は底を上にして置く——それが加瀬浦の決まりごとでした。あの子が繰り返した「うちの印、覚えとって」の意味を、私は四十年かけて知ります。約束の前日…
深夜の土石流で母と妹を失った、十四歳の夏でした。救助にあたった自衛隊員がこぼした「ごめんなぁ」という一言の本当の意味を、私は十九年後、堰堤の草を刈りながら知るこ…
山の観測員だった夫を沢に奪われて四度目の冬。妻は毎朝、三つ目の渡し石を見おろしてから家に戻ります。甘い卵焼き、桜の櫛、所長の夜の電話。一周忌に開いた野帳の余白と…
駅裏の小さな卓球場に、毎日ひとりで通う高校生がいました。彼が球出し機をいちばん速くする理由を、店主は長いあいだ知りませんでした。亡き父と交わした約束と、返せなか…
藍染職人の継母を、私は最後まで「お母さん」と呼べなかった。青い手が苦手だった私を川から押し上げ、そのまま帰らなかった人。遺された日記のダイヤル錠は、私の誕生日で…
十七歳の誕生日に、育ての母だと知らされた私は、母を「おばさん」と呼び、差し出された手紙さえ、その場で丸めて捨ててしまいました。その翌日、母は突然この世を去ります…