無音の世界で芽生えた恋
五年前の冬の朝。 出動指令の無線が車内に響き、私たち消防隊は病院火災の現場へ走った。 空気は乾ききり、到着したときには二階の窓から黄炎が噴き上がっていた。 …
学年ビリから医師へ ― 父を救えなかった夏
高校一年の夏休み。 両親に呼ばれた居間は、扇風機の風がむなしく回っていた。 「大事な話がある」 父は静かに、自分が末期のがんであると告げた。 手術はもはや延…
彼女が遺した時刻の暗号
元号が昭和から平成に変わろうとしていた頃のことです。 私は二十代半ば、彼女も同い年でした。 ちょうど、付き合おうかという時期に――彼女から、泣きながら一本の…
義母がくれた、ほんとうの愛
俺が六歳のとき、親父が再婚して、新しい母親がやってきた。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 そう言って紹介された女性は、優しく微笑んでいた。 家族とか血…
サンタから預かったDS
私は、宮城県に住んでいる。 その日も朝から、寒空の下、スーパーの前に長い列ができていた。 並んでいた私の前には、母親と、泣きべそをかいた小さな男の子がいた。…
もどれない過去と、隣にある幸せ
僕が会社を辞めたのは、24歳のときだった。 理由は、当時の上司の姿に未来の自分を重ねてしまったから。 彼は会社の駐車場で寝泊まりし、わずかに見られるのは子ど…
車いすの息子と受けた心ない言葉
| 心温まる話
私は10歳の息子とともに、今日もいつも通り通院のためにバスに乗りました。息子は先天的な病を抱えており、車いすでの生活を送っています。薬の副作用のため体型も変…
「つまんないことに負けんなよ」
僕は小さい頃、両親に捨てられました。 それから、あちこちを転々として、生きてきました。 小さな頃の僕は、「施設の子」「いつも同じ服を着た乞食」と、後ろ指をさ…
中学時代の忘れられない記憶
| ちょっと切ない話
私がその先生に出会ったのは、中学一年生の春でした。 先生は、私たちのクラスの担任でした。 明るくて、元気で、いつも全力。 でも、怒るときは本気で怒る。 机を…