母の想い
雨の県道で運ばれてきた身元不明の女性。首のペンダントに入っていたのは、当直医である彼の幼い日の写真でした。三十年分の手紙と、一度も途切れなかった通帳が語る母の沈…
胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。
雨の県道で運ばれてきた身元不明の女性。首のペンダントに入っていたのは、当直医である彼の幼い日の写真でした。三十年分の手紙と、一度も途切れなかった通帳が語る母の沈…
母子家庭で小さな惣菜屋を営みながら三人の子を育てた母。電気やガスが止まった夜も割烹着姿で笑い、夜は清掃の仕事も掛け持ちしていた母が、高校進学を諦めようとした私に…
生まれる前から家にいた白猫のミーコ。嵐の夜に父が拾ったその子は、漁師の父を持つ港町の少女のそばで、つらい日もうれしい日もいつも静かに寄り添い続けてくれました。一…
横浜へ単身赴任した私は、人混みが苦手だという母を、いつしかお義理でしか誘わなくなっていました。母の急逝後、遺品から出てきた横浜のガイドブック。赤鉛筆の線と、行き…
二十歳の誕生日、病床の父から手渡されたのは、亡き母が「父になる日のたくみへ」と綴った一通の手紙でした。母の願いと、父が黙って重ねた無数の犠牲。家族三人で過ごした…
三百二十円を握りしめ、入院する母へ贈り物を探して古書店を訪れた男の子あきら。棚の奥で見つけた古い星の絵本が、巡り巡って母から子へと想いを運びます。命の尊さと親子…
海に磨かれた青い硝子のお守りを、幼馴染の千夏はいたずらのように持ち去りました。彼女の死後に開いた宝物箱と、投函されなかった手紙の束が、言えなかった互いの想いを静…
父の顔を知らずに育った私は、母がなぜ父を語ろうとしないのかを、長いあいだ誤解していました。りんご畑の町の墓の前で知った、母の沈黙の奥に隠された涙。亡き父と、今を…
感動する話をお探しの方に。山岳救助隊員だった無口な父は「情熱だけは持ち続けろ」とだけ言い遺し、雪の山で要救助者を庇って亡くなりました。押し入れに遺された私のサイ…
泣ける話をお探しの方へ。隣家のひとつ年上の章にいと作りかけた「川の生きもの図鑑」。病に伏せた彼のもとへ通えなくなった少年の後悔と、遺された九十四番目のページの言…
まだ一年程前の事です。 彼女がこの世を去りました。病死です。 その彼女と出会ったのは7年前でした。彼女はその頃、大学1年生でした。 彼女には持病があり、 「あと…
九歳で母を亡くし荒れていた私が、父のタンスの奥に見つけたのは「二十歳のあなたへ」と書かれた一本のビデオテープでした。病室の母が遺した十五分の言葉が人生を変えてい…
心肺停止で運ばれた八十八歳の夫に、八十四歳の妻が静かに願い出たのは、自らの手で行う心臓マッサージでした。雪の夜の救急外来で研修医が見届けた夫婦の最期の時間を描く…
苦手だった上司の部長は、私のたった一晩の失敗の責めを、何ひとつ言わずにたった一人で背負い、静かに会社を去っていきました。開いた薄荷の飴缶に添えられた一粒のメモが…
坂の上でいつも私を待っていてくれた、雑種の犬コロ。捨て犬だった子犬との出会いから、大病の看病、台風の日の待ち合わせ、そして十八歳を目前に旅立った最期まで、十八年…