タグ: 泣ける話

校長先生が言わなかった名前

鳥取・倉吉の本屋で起きた万引き騒動。たった千円だと言い張る親たちに、校長先生はあの静かな一言だけを返しました。伝説として町に語り継がれた言葉よりも、先生が最後ま…

覚えたてのひらがな

淡路島・江井の線香屋の家で、五つの長女が母の車に覚えたてのひらがなを刻みました。釘だと思っていた傷の幅は、私が胸ポケットに入れていた歯の欠けた櫛と、ぴたりと同じ…

パパしっかり

妻を亡くした父が、お通夜の夜にひとり綴った一通の手紙です。残された高校生の娘が、亡き妻とそっくりの声で口にした六文字とは何だったのか。家族の合言葉が静かに受け継…

母が折ったページの角

体育のあとの教室で、机の上に切り裂かれた文庫本が置かれていました。いじめのことを、私は母に言えませんでした。友達のいない私に、母が月に一冊だけ本を買ってくれる人…

欲しかったオモチャ

長崎・波佐見の窯場の町で、小学四年だった私は店先のブリキの消防車を盗みました。その年の誕生日、父が押入れの奥の紙袋から出したのは、まったく同じ品でした。底に並ん…

自衛隊の誇り

公民館の集いで浴びせられた問いに、自衛官の弟は六秒黙ってから短く答えました。熊本・八代のい草農家を舞台に、弟が中学の技術の時間に三度も作り直した振るい板の目盛り…

うまくいかない日に寄る店

仕事のミスが続いた秋に、独り言のつもりで漏らした一言を、父は居間で聞いていました。三日置いてかかってきた電話と、三十年のあいだ家族を一度も連れてこなかった川口の…

員数の紙が一枚増えた朝

山口・宇部の整備士訓練センターで、同期の一人が退所になった秋のこと。三十九人が指を切って押した血判状は届かず、翌週から員数点検の紙が一枚だけ多くなりました。十四…