タグ: 泣ける話

九回ほどいた藍色の帽子

岡山・児島の縫製工場で裁断をしていた二十六歳の従兄弟と、毎日六時半に病室へ通った検品係の千夏さん。手編みの藍色の帽子は、ひと月ごとに新しくなりました。十五年後、…

約束したのは外遊びではない

点滴の針を怖がって泣いていた五歳の子が、うん分かった約束だよ、と言って自分から腕を出しました。外で遊ぶ約束だと、私はずっと思っていました。看護師がシーツを抱えて…

路地に立てかけられた板

和歌山・湯浅の醤油蔵が並ぶ細い路地で、置き忘れたスケッチブックが白い袋と一枚の板に守られていました。軒下に立てかけられた板が四十年前から誰のために置かれていたの…

一の位だけ鉛筆の父の帳面

高校一年の夏に父のがんを知り、八戸の市場に立ち続ける背中を見ていました。父の帳面は一の位だけが鉛筆です。その数字の意味と、最後の一年に父が市場で呼ばれていた名前…

ガイドブックの赤鉛筆の線

東京に来ないかと誘うたび、母は人ごみが苦手やからと断った。その母の鏡台の引き出しから出てきた十二年前のガイドブックには、浅草にも焼肉屋にも赤鉛筆の線が引いてあり…

校長先生が言わなかった名前

鳥取・倉吉の本屋で起きた万引き騒動。たった千円だと言い張る親たちに、校長先生はあの静かな一言だけを返しました。伝説として町に語り継がれた言葉よりも、先生が最後ま…

出席簿の正の字を数えていた

中学三年の十月、担任が朝の会で一人の名前を大声で呼びました。その日の昼から、からかいは止みました。二十年後、先生の出席簿の正の字を見せられて、僕はあの朝が偶然で…