天国の妻からの手紙
淡路の線香屋のもとへ、五年も遅れて亡き妻からの手紙が届きました。同封されていた細い紙は、五年経ってもまだ匂ったのです。なぜ五年だったのか。香りの長さに託された約…
淡路の線香屋のもとへ、五年も遅れて亡き妻からの手紙が届きました。同封されていた細い紙は、五年経ってもまだ匂ったのです。なぜ五年だったのか。香りの長さに託された約…
妻の携帯に残る送信済みは、十九年前の六月に打たれた一通だけだ。濁点の抜けた一行と、カレンダーの裏に書き写された九枚の五十音を、夫である私はまだ妻に言えずにいる。…
山の観測員だった夫を沢に奪われて四度目の冬。妻は毎朝、三つ目の渡し石を見おろしてから家に戻ります。甘い卵焼き、桜の櫛、所長の夜の電話。一周忌に開いた野帳の余白と…
北陸の銭湯を継いで十七年。番台の上で妻の銀色の携帯が一度だけ震えた夜から、私は落ち着かなくなりました。綾が頑なに機種変更をしない理由は、脱衣所の棚に置かれた古い…
心肺停止で運ばれた八十八歳の夫に、八十四歳の妻が静かに願い出たのは、自らの手で行う心臓マッサージでした。雪の夜の救急外来で研修医が見届けた夫婦の最期の時間を描く…
雨の日曜、整理だんすのいちばん下から出てきた布張りのノート。そこには妻の昼ごはんが毎日、納豆ごはんかお茶づけだと書かれていました。小さくなった茶わん、棚の上の菓…
夫は、息子の産声を聞けないまま、静かに逝きました。一歳の誕生日に郵便受けへ届いた、二通の手紙。雪深い和紙の里で紙を漉く妻のもとへ、亡き夫が遺した不器用な言葉が、…
雪の降る夜、防波堤で凍えていた洋裁職人の私を救ったのは、道に迷ったパン屋の湊さんでした。焼きたてのパンから始まった十年の静かな暮らしと、守れなかった最後の約束を…
病を抱えた妻は、娘の未来の誕生日に宛てて、一通ずつ手紙を書き残しました。雨のバス停で傘を差し出して出会い、最後まで寄り添った夫婦の歳月を、静かに綴る泣ける話です…
活版の工房で十年、私は鉛の文字ばかり拾ってきました。父親を見送った妻が声を失った一年、私が夜ごと組んだ言葉を、妻は空き缶の活字としてひとつずつ集めていました。蓋…
静岡・浜松でピアノの響板を作る工場で出会った妻は、生まれたときから音を知らないろう者でした。西日の部屋で背後からそっと告げた、聞こえるはずのない言葉。それでも妻…