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綾が離さない銀色の携帯

北陸の銭湯を継いで十七年。番台の上で妻の銀色の携帯が一度だけ震えた夜から、私は落ち着かなくなりました。綾が頑なに機種変更をしない理由は、脱衣所の棚に置かれた古い…

引き出しの奥の布張りのノート

雨の日曜、整理だんすのいちばん下から出てきた布張りのノート。そこには妻の昼ごはんが毎日、納豆ごはんかお茶づけだと書かれていました。小さくなった茶わん、棚の上の菓…

空き缶の活字は崩さないで

活版の工房で十年、私は鉛の文字ばかり拾ってきました。父親を見送った妻が声を失った一年、私が夜ごと組んだ言葉を、妻は空き缶の活字としてひとつずつ集めていました。蓋…

西日の部屋で振り返った妻

静岡・浜松でピアノの響板を作る工場で出会った妻は、生まれたときから音を知らないろう者でした。西日の部屋で背後からそっと告げた、聞こえるはずのない言葉。それでも妻…