タグ: 家族

覚えたてのひらがな

淡路島・江井の線香屋の家で、五つの長女が母の車に覚えたてのひらがなを刻みました。釘だと思っていた傷の幅は、私が胸ポケットに入れていた歯の欠けた櫛と、ぴたりと同じ…

パパしっかり

妻を亡くした父が、お通夜の夜にひとり綴った一通の手紙です。残された高校生の娘が、亡き妻とそっくりの声で口にした六文字とは何だったのか。家族の合言葉が静かに受け継…

欲しかったオモチャ

長崎・波佐見の窯場の町で、小学四年だった私は店先のブリキの消防車を盗みました。その年の誕生日、父が押入れの奥の紙袋から出したのは、まったく同じ品でした。底に並ん…

姉が刻んだ二本目の傷

高知・四万十の川漁師の家に生まれた私が、二十七歳ではじめて知った自分の出生の話です。窪川の祖母の家の大黒柱に二本ずつ並んでいた鉛筆の傷。その薄い三本を刻んでいた…

姉の思いやり

四歳の姉が祖父の削った描き炭十二本を全部折った理由は、二歳の妹と交わした半分この約束でした。能登・珠洲の揚げ浜塩田を舞台に、十二本のうち一本だけに彫られていた浅…

ママの棺

一歳半で母を見送った友人は、母の顔も声も覚えていません。それでも、眠る子の背中を二回叩いてひとつ撫でる手つきだけが、二十一年後の今も彼女の手に残っていました。金…

迷惑掛けてゴメンね

余命を隠して兄だけを頼った妹が繰り返した「迷惑掛けてゴメンね」。その言葉が二十年前の冬、簞笥の引き出しの前から始まっていたと知ったとき、兄に残されたものとは。学…

世界一の良い娘

宮城の白石で温麺を作る小さな工場の二代目です。娘のバイオリンを巡って女房と喧嘩した翌日、小学二年の娘が封入作業の求人へ自分で電話をかけていたと知りました。毎晩、…

天国へ持って行きたい記憶

タオル工場で三十年、白い生地の傷を探し続けた母。傷を見つけるたびに結んでいた赤い一本の糸には、娘が二十四年ものあいだ気づかなかった意味がありました。母がためらわ…