嫁の手

公開日: ちょっと切ない話 | 夫婦 | 子供 | 家族

子供の手(フリー写真)

うちの3才の娘は難聴。殆ど聞こえない。

その事実を知らされた時は嫁と泣いた。何度も泣いた。

難聴と知らされた日から、娘が今までとは違う生き物に見えた。

嫁は自分を責めて、俺も自分を責めて、周りの健康な赤ん坊を産むことが出来た友人を妬んだ。

どん底だった。

馬鹿みたいにプライドが高かった俺は、周りの友人達に娘が難聴だと知られるのが嫌だった。

何もかもが嫌になった。

嫁と娘と三人で死のうなどと毎晩考えていた。

ある晩、嫁が俺に向かってやたらと手を動かして見せた。

頭がおかしくなったのだろうかと思っていたら、喋りながらゆっくり手を動かし始めた。

「大好き、愛してる。だから一緒に頑張ろう」

手話だった。

その時の嫁の手、この世のものではないと思うほど綺麗だった。

それで目が覚めた。何日もまともに娘の顔を見ていないことにもやっと気付いた。

娘は眠っていたが、俺が声を掛けるとにっこり笑った。

あれから三年。

娘の小さな可愛い手は上手に動いている。喋っている。

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