三度の祈り

公開日: 友情 | 夫婦 | 家族 | 悲しい話 | |

月

それは今から数年前、俺の人生における三度の神頼みの始まりでした。

最初は七歳の時、両親が離婚し、厳しい祖父母の元へ預けられた時のことです。

彼らから「お前のせいで別れた」と繰り返し言われ、孤独感に苛まれていました。

ある寂しい夜、カーテンの隙間から差し込む月の光を見つめ、初めての神頼みをしました。

「父ちゃんと母ちゃんと一緒にいたい」と願いましたが、それは叶うことはありませんでした。

父は年に数回顔を見せる程度で、母とは再び会うことはなかったのです。

時は流れ、中学を卒業し、自分の力で生きる道を選びました。

20歳になると、不器用ながらも愛情を感じることができる女性と出会い、結婚しました。

彼女は俺の心を温かくしてくれる存在でした。

二年後、喜びも束の間、子供が生まれましたが、重い障害を抱えていました。

「一ヶ月の命」と宣告され、俺は絶望の淵に立たされました。

あの時の月が、再び俺の前に現れた夜、二度目の神頼みをしました。

「俺の命と引き換えにでも、子供を救ってください」と。

しかし、この願いも叶わず、子供はこの世を去りました。

悲しみの中、仕事のため関東へ単身赴任しましたが、その距離が原因で妻との関係も終わり、離婚しました。

新たな土地で、偶然再会した子供の頃の友人との関係は、唯一の心の支えでした。

しかし、彼もまた重い病に侵され、余命わずかだと知らされました。

彼との時間は、俺にとってかけがえのないものでした。

彼が「まだ死にたくない」と言った夜、三度目の神頼みをしました。

「俺が死んでもいいから、彼を助けてください」と。

しかし、彼もまたこの世を去りました。

今、俺は一人で生きています。

人との関わりを避け、ただひたすらに日々を過ごしています。

かつて愛した人々への罪悪感と、彼らへの愛情が胸の奥深くに残っています。

息子、親友、そして関わったすべての人々への思いが、俺を生かし続けています。

いつか彼らと再会する日まで、この思いを胸に生きていきます。

関連記事

浜辺で手を繋ぐカップル(フリー写真)

彼女の面影

彼女が痴呆になりました。 以前から物忘れが激しかったが、ある日の夜中に突然、昼ご飯と言って料理を始めた。 更に、私は貴方の妹なのと言ったりするので、これは変だと思い病院へ行…

阿佐ヶ谷七夕まつりの短冊(フリー写真)

人のために出来ること

ある家庭に、脳に障害のある男の子が生まれた。 そして数年後、次男が誕生した。 小さい頃、弟は喧嘩の度に 「兄ちゃんなんて、バカじゃないか」 と言った。それを聞い…

浅草

母の秘密の願い

都会の喧騒とは異なる田舎の空気。 私はその中で母の日常を想像していた。彼女はいつも家のことに追われ、人混みの多い場所に足を運ぶことはなかった。私が東京に単身赴任してからも、母は…

コスモス

未来への手紙

家内を亡くしました。 お腹に第二子を宿した彼女が乗ったタクシーは、病院へ向かう途中、居眠り運転のトラックと激突し、彼女は即死でした。 警察からの連絡を聞いた時、酷い冗談だ…

教室(フリー背景素材)

同級生の思いやり

うちの中学は新興住宅地で殆どが持ち家、お母さんは専業主婦という恵まれた家庭が多かった。 育ちが良いのか、虐めや仲間はずれなどは皆無。 クラスに一人だけ、貧乏を公言する男子が…

戦闘機

戦時の影

私が今、介護福祉士として働いているところに、とある老人がいる。彼は普段から明るく、食事もよく食べ、周囲を和ませる存在だ。 先日、妹が修学旅行で鹿児島に行く話をしたとき、彼が珍し…

通帳(フリー写真)

おめでとさん

今から十年前、まだ会社に入ったばかりの頃の話。 当時の給与は手取り18万円くらいで、家に3万円を入れていた。 親に5万にしろと言われ出て行った。 一人暮らしをすれば会…

夫婦の手(フリー写真)

大事なメール

嫁が風呂に入っている時に携帯を見てしまった。 メールボックスには俺が送った『今から帰る』というような、くだらないメールばかり。 でもフォルダがあって、そこにメールが一杯貯ま…

母の手を握る赤ちゃん(フリー写真)

生まれて来てくれて有難う

親と喧嘩をし「出て行け」と言われ、家を飛び出して6年。 家を出て3年後に知り合った女性と同棲し、2年後に子供が出来た。 物凄く嬉しかった。 母性愛があるのと同じように…

手を繋ぐ親子(フリー写真)

会いたい気持ち

私が4歳の時、父と母は離婚した。 当時は父方の祖父母と同居していたため、父が私を引き取った。 母は出て行く日に私を実家に連れて行った。 家具や荷物がいっぱい置いてあ…