同級生の思いやり

公開日: 友情 | 心温まる話

教室(フリー背景素材)

うちの中学は新興住宅地で殆どが持ち家、お母さんは専業主婦という恵まれた家庭が多かった。

育ちが良いのか、虐めや仲間はずれなどは皆無。

クラスに一人だけ、貧乏を公言する男子が居た。

7人兄弟の長男で、子沢山と低収入で給食費も遅れるような状態。

黒であるはずの制服は何故か緑色っぽく色が褪せ、中学3年生になると急に身長が伸びたためか、上腕の3分の1くらいが出ているような状態になってしまっていた。

前のボタンもきつくて、閉められなくなっていた。

ある日の休み時間、何かの拍子に背中の真ん中の縫い目が裂けてしまった。

本人は笑いを誘うギャグを飛ばし、笑いながら家庭科の得意な女子が縫って直してあげた。

そこへある男子が、

「誰か兄ちゃんとか近所の人とかで、綺麗な制服余っている人いないかー?」

と、声を掛けた。

みんな家に帰って、親や隣近所に聞いたりして要らない制服を探した。

翌日、2着の上着と1着のズボンが彼の机に置かれた。

その日はクラス対抗バレーボール大会の日で、制服を貰った彼は嬉しそうに制服を高く持ち上げ、

「みんなー、ありがとなー。お礼に今日は俺がバンバン点取るからさー」

と言った。

夕刊の新聞配達のため帰宅部だった彼は、どこで覚えたのかと思うほどバレーボールが上手く、宣言通りに、一人で何点も点を決めクラスは優勝した。

勝った瞬間、男子は彼に駆け寄り、ポカポカ頭を叩いたり抱きついたり、最後には胴上げ。

それを見ていた女子たちは何故かみんな号泣。

良い時代だった。

関連記事

カップル

変わらずそばに

事故に遭い、足が不自由になってしまいました。車椅子がなければ外に出ることも、トイレに行くこともままなりません。多くの友人が去っていきましたが、彼だけは事故前から変わらずにそばにいてく…

花嫁(フリー写真)

血の繋がらない娘

土曜日、一人娘の結婚式だったんさ。 出会った当時の俺は25歳、嫁は33歳、娘は13歳。 まあ、要するに嫁の連れ子だったんだけど。 娘も大きかったから、多少ギクシャクし…

新婦(フリー写真)

父が隠していた物

友人(新郎)の結婚披露宴での出来事。 タイムスケジュールも最後の方、新婦の父親のスピーチ。 ※ 「明子。明子が生まれてすぐ、お前のお母さんは病気で亡くなりました。 お前…

猫

声を失った猫

昔話だけど。 実家の猫は赤ちゃんの時、空き地で目も潰れて放置され、泣き喚いていたところを保護したんだ。正直、化け猫のようで触るのも躊躇するほどの悲惨さだった。目は病院で治療して…

月明かり(フリー写真)

お月さんの下で

昨日、彼女の家の犬が死んだ。 彼女の家は昔、彼女の兄貴が高校生という若さで自殺してから、両親も彼女もうつ病になって酷い状態だったらしい。 そんな時に引き取って来た犬だったそ…

手を繋ぐ(フリー写真)

大事な我が子へ

自分が多少辛くても、腰が痛くても頭が痛くても、子供が元気にしてくれているのが凄く嬉しいの。 元気そうな子供の姿を見たり声を聞いているとね、本当に嬉しいの。 別に感謝してくれ…

夫婦

愛の記憶

嫁がお風呂に入っている間に、つい彼女の携帯を見てしまった。 メールボックスには、私が送った些細な内容のメールばかりが溢れていた。 しかし、あるフォルダを開くと、そこには知…

夫婦の重ねる手(フリー写真)

妻からの初メール

不倫していた。 4年間も妻を裏切り続けていた。 ネットで出会った彼女。 最初は軽い気持ちで逢い、次第にお互いの身体に溺れて行った。 ずる賢く立ち回ったこともあり…

柴犬(フリー写真)

おばあちゃんと柴犬

昔の話だが、近所に旦那さんに先立たれ、独り暮らしをしているお婆ちゃんが居た。 お婆ちゃんは室内で柴犬を飼っていた。 嫁いだ娘さんや孫たちがしょっちゅう様子を見に来ていたから…

駅

再生の贈り物

私には本当の親がいない。物心ついたときにはすでに施設で育てられていました。親が生きているのか、死んでいるのかもわからないまま、私はただ普通に生きてきました。 施設での唯一の家族…