少年とテツ

公開日: ちょっと切ない話 | 心温まる話 |

犬

1月の寒い朝、思い出す少年がいます。

当時、私は狭心症で休職し、九州の実家で静養していました。

毎朝、愛犬テツとの散歩中、いつも遅刻ギリギリの不良少年に出会いました。

彼はやがてテツと仲良くなり、私とも言葉を交わすように。

家庭環境は複雑だったようですが、彼はよく部屋に遊びに来て、テツと遊んでいました。

時間が流れ、少年は更に不良へと傾きました。

しかし、私の部屋では純粋な少年のままで、テツと笑い合っていました。

ある夜、突然部屋に来て、別れを告げた彼。

何があったのかと心配しましたが、彼は去ってしまいました。

約束通り、春になっても彼は戻って来ませんでした。

テツも、彼の不在を寂しそうに感じていたようです。

やがて、寒い冬が訪れました。

愛犬テツが静かにこの世を去ったのです。

悲しみに暮れる私に、一年ぶりに現れた少年。

少年は、テツの死を知り、思わず泣き崩れました。

彼の涙に、私も涙が溢れました。

少年は、テツのことを本当に想ってくれていたんだと心から感謝しました。

少年は話し始めました。

家庭の問題から不良に走り、犯罪を犯して少年院に入れられました。

両親に見放され、学園という施設で生活していたと言います。

彼は、施設で出会った小さな男の子と特別な絆を結びました。

その子は、彼に懐き、彼もその子を大切に思っていました。

ある日、その子の背中に残るタバコの跡を見て、彼は涙を流しました。

彼自身の苦しみを乗り越え、その子の悲しみに共感したのです。

その子が別れの時、「僕、泣かないで頑張るからね!」と言った言葉は、彼の心を揺さぶりました。

少年は涙を流しながら去って行きました。

私はその話を聞き、人間の強さと愛情の深さを改めて感じました。

彼は苦しい環境の中でも、希望を見出し、成長したのです。

テツの死を悼みながらも、彼の話は私に深い感動を与えました。

1月の寒い朝、少年とテツの物語を思い出し、心を温めるのです。

関連記事

空(フリー写真)

神様がくれたミッション

私は都内でナースをしています。 これは二年程前の話です。 ある病院で一人の患者さんを受け持つことになりました。 22歳の女性の患者さんです。 彼女は手遅れの状態…

ベトナムの夕日(フリー写真)

あの子は僕の友達なんです

ベトナムの村にある宣教師たちの運営する孤児院が、爆撃を受けてしまいました。 宣教師達と二人の子供達が即死し、その他の者も重傷を負いました。 重傷になった者達の中でも、8才の…

雲海(フリー写真)

命綱を譲った男性

1982年1月13日16時1分頃、ワシントン国際空港を激しい吹雪のなか離陸したエア・フロリダ90便が、離陸直後に氷結したポトマック川に架かる橋梁に激突・墜落した。 水没を免れた…

恋人同士(フリー写真)

大切なペンダント

中学2年生の時、幼馴染のKという女子に恋心を抱いていた。 しかし、Kは俺よりも数倍かっこいい男子と付き合っていた。 俺がかなう相手でもなく、彼女自身がそれを伝えてきたので…

梅干し(フリー写真)

憧れた世界

飲んだくれの親父のせいで貧乏育ち。だから小さい頃は遠足の弁当が嫌いだった。 麦の混ざったご飯に梅干しと佃煮。 恥ずかしいから、 「見て~!俺オッサン弁当!父ちゃんが『…

医師

学年ビリから医師へ ― 父を救えなかった夏

高校一年の夏休み。 両親に呼ばれた居間は、扇風機の風がむなしく回っていた。 「大事な話がある」 父は静かに、自分が末期のがんであると告げた。 手術はもはや延命…

母(フリー写真)

私を大学に通わせてくれた母へ

あなたは私を産むまでずっと父の暴力に苦しんでいましたね。 私が産まれた時、あなたは泣きながら喜んだそうですね。 私が一才の誕生日に、借金を抱えたまま父が自殺しましたね。 …

太陽と手のひら(フリー写真)

この命を大切に生きよう

あれは何年も前、僕が年長さんの時でした。 僕は生まれた時から重度のアレルギーがあり、何回も生死の境を彷徨って来ました。 アレルギーの発作の事をアナフィラキシーショックと言…

桜

お兄ちゃんの約束

私は小学1年生の息子と、幼稚園年中の息子を持つ二児の母です。下の息子には障害があり、来年の就学が大きな課題となっています。 今年に入って、上の息子がニコニコしながら言いました。…

桜

桜色の約束

かつて、自分を嫌な人間だと思い込んでいた僕がいました。 僕には自信がなく、容姿にも、頭の良さにも恵まれていなかった。それでいて、人を欺くことを厭わない小心者でした。 誰も…