彼女の遺言
大学時代の同級生仲間で、1年の時から付き合っているカップルが居ました。
仲良しで、でも二人だけの世界を作っている訳ではなく、みんなと仲良くしていました。
私は女の方の一番の友達だったのだけど、彼氏とも仲良くしていました。
大学を卒業しても交流があったし、何度か会った時も二人は一緒で、本当に仲良しだなあ…と思っていました。
※
最後に三人で会った時、
「結婚しないの?」
と聞いたら、
「うん、まあね…」
とお茶を濁すような返事が返って来ました。
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その後、彼女の病気が判り入院して、彼は仕事の行きと帰りに欠かさず彼女のお見舞いに行っていました。
私も何度も行きました。
病名は水頭症(脳腫瘍の一種)でした。
結局、治療も空しく、彼女はこの世の人ではなくなってしまったのです…。
私達が25歳の夏でした。
※
お通夜と告別式のお手伝いに行った時、喪服を着てちょこんと座り、タバコを吸っている彼に、
「…何て言って良いか、分かんないよ…」
と、私は泣きながら言いました。
すると彼は、
「そうだね。でも、これであいつが他の誰のものにもならない事が決まったしね」
と、ニッコリと笑顔で言いました。私は耐えられなくて号泣。
それでも彼は殆ど無表情で、まあまあと私の肩を抱いてくれました。
出棺の時、
「これが最後のお別れです」
と式場の人が言った途端、彼は耐え切れなくなって、崩れるようにボロボロと涙を流し始めました。
子供のように、大きな声を上げて。
その姿を見て、またしても私は号泣でした。
※
数日後、少し落ち着いてから彼と会いました。
見て欲しい物があると言うのです。
それは彼女が昏睡して意識を失う前に書いた、最後の手紙だったんです。
「俺はね、あいつを励まそうと思って『結婚しようよ』と言ったんだ。
そうしたら、あいつは『病気が治ったら結婚届けを出そうね』と言ってた。
俺は『間違いなく治るからさ』と励まして、役所に行って結婚届けを貰って来た。
でも俺は、本当はもう無理だって知ってたんだ。でも励ましたかったんだ。
あいつが死んだ日に、あいつのお父さんが黙ってこれを渡してくれた」
彼はそう言って、私に手紙を渡してくれました。
中には見慣れた彼女の筆跡で、こう書いてありました。
『うそつき。でも凄く嬉しかった。本当にそうなったらな…と何度も思いました。
私にはあなたの代わりはもう見つからない。だから私はずっとあなたのもの。
だけどあなたの代わりはいるんだよ。気にしないで良いからね。
落ち込んだあなたを、きっと一番励ましてくれるだろう人が誰なのかは、解ってるから。
その人にこの手紙を見せてあげて下さい。本当にありがとうございました。じゃあね!』
私はその手紙を見て、人前なのにまたしてもボロボロ号泣してしまって。
彼は、
「それは多分、君の事なんじゃないか?」
と言いました。
うん。私は前から彼が好きだった。
それから彼とお付き合いを始めて、もう4年になります。