恐かった父

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

ビール(フリー写真)

私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。

家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。

私が結婚する事になり、ドキドキしながら主人を連れて行った時も、ずっと黙ったままでした。

やっと口を開いたと思えば、

「ビールは何を飲むんや?」

というぶっきら棒な一言。

その日は何とか無事に終わり、式の当日は終始酒を注ぎに回っていました。

その後、私は子供が生まれて少し育児ノイローゼ気味になっていました。

それを見た父が何故か毎日、孫の世話をしに来るようになりました。

父は当然子供の面倒など見た事が無いので、する事が滅茶苦茶。

苛々していた私は、嫌味ばかり言ってしまいました。

そして2ヶ月後、あまり調子が良くないと言っていた矢先、他界しました。

何でもっと優しくしてあげなかったんだろう?

紙オムツの仕方を聞かれて、

「それぐらい解るでしょ」

なんて、どうして冷たく言っちゃったんだろう?

あの日、自分でどうにかしようと思ったらしく、変な形になったオムツが残されていました…。

その後、父が毎日付けていた日記が見つかりました。

式の当日のページを開くと、

「あのバカ娘がとうとう嫁に行った。最後の挨拶では涙が出た。幸せになれ」

と書いてありました。

おまけに家には、主人があの日答えた『アサヒビール』が、押入れ一杯に詰められていました。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

note版では広告が表示されず、長編や特選記事を快適にお読みいただけます。
さらに初月無料の定期購読マガジン(月額500円)もご用意しており、読み応えあるエピソードをまとめて楽しむことができます。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

お弁当グッズ(フリー写真)

海老の入ったお弁当

私の母は昔から体が弱かった。 それが理由かは分からないが、母の作る弁当はお世辞にも華やかとは言えない、質素で見映えの悪いものばかりだった。 友達に見られるのが恥ずかしくて、…

春の路地(フリー写真)

命よりも大切な友達

お前は俺にとって、命よりも大切な友達だ。 小学校2年の時、友達も居なかった俺の誕生日に、プレゼントとしてチョロQを持って来てくれた。 その時の600円というのは、俺達にとっ…

クリスマスツリー

サンタさんへ ― 6歳の願いごと

クリスマスの数日前、6歳の娘が、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていました。 ピンクのキティちゃんの便箋が、丁寧に折りたたまれていて。 「何が欲しいのかなぁ」と、私と夫…

猫(フリー写真)

愛猫との別れ

私がまだ高校生の冬、家で飼っている猫が赤ちゃんを産みました。しかも電気毛布を敷いた私の布団で。 五匹も産んだのですが、次々と飼い主が決まり、とうとう一匹だけになりました。 …

手紙

パパ、本当にありがとう

俺が30歳のとき、一つ年下の女性と結婚した。今では、娘が三人と息子が一人。 長女は19歳、次女は17歳、三女が12歳。長男は10歳。 この話をすると、よく聞かれるのが――…

ドーナツ(フリー写真)

ミスドの親子

日曜にミスドへ行った時の話。 若いお父さんと、3歳くらいの目がくりくりした可愛い男の子が席に着いた。 お父さんと私は背中合わせ。以下、肩越しに聞いた会話。 子「どーな…

空(フリー写真)

お盆のある日

私には4年前、赤ちゃんの時に亡くなった子どもがいました。 昨年の8月のお盆のある時、上の娘が空を見上げて 「お母さん、空見てみて。ほら、空の雲の間に光っているところあるで…

結婚式(フリー写真)

娘の結婚式だった

先週、娘の結婚式だった。 私も娘も素直な性格ではないので、ろくに会話を交わすこともなく結婚前夜が過ぎた。 結婚式当日は、娘を直視できなかった。 バージンロードでは体…

机

文化祭の日には

ある日、教室へ行くと座席表が更新されていました。私の席は廊下側の前から二番目、彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまいましたが、同じクラスになれて本当に良かったと思いました。 クラ…

手を握る夫婦(フリー写真)

パパしっかり

妻へ まだ高校生だけどしっかり者の一人娘を遺してくれて有難う。 昨日の貴女のお通夜は寂しくないように沢山の友達連れて来てくれて有難う。 でもやっぱり寂しくて、娘と声…