町の片隅に住む五人家族

公開日: 家族 | 心温まる話 |

町並み

それは、お父さん、お母さん、そして小学生の三姉妹から成る仲良しの一家だった。

しかし、時は残酷にもその家族の中心であるお母さんを奪ってしまう。

ある日の帰宅途中、悲しい交通事故が彼女の命を奪ったのだ。

家族を支えていたお母さんのいない日常は、慣れない家事に四苦八苦するお父さんの姿が目立った。

タマゴ焼きは焦げ、洗濯物は皺だらけ。

しかし、そんな中でもお父さんは、決して不機嫌になることなく、三姉妹を優しく包み込んで育てていった。

彼の楽しみはただひとつ、お風呂での歌唱タイム。

湯船に浸かりながら、心の底から歌を唄うお父さんの声は、家族の心を癒していた。

「いつか本格的なカラオケボックスで思い切り唄いたいな~」と、時折家族に話していた。

ある日、お父さんの誕生日が近づくにあたり、三姉妹は秘密の計画を立てた。

彼女たちが集めたお小遣いを一つの貯金箱に集め、近くのカラオケボックスへと向かった。

受付で、子供たちの突然の要求に驚く店員。

しかし、店長が彼女たちの姿を見つけると、何かを悟ったように優しく近づいてきた。

「このお金、全てで予約したいんです。」

真っ直ぐな瞳で答える三姉妹。

お金の額を見ると、当然、予約するのには足りなかった。

しかし、店長は微笑みながら「了解しました」と答えた。

誕生日当日。

三姉妹は店内の部屋を飾りつけ、お父さんをサプライズパーティーに招待した。

楽しい時間が流れ、家族の笑顔が溢れる中、お父さんは感極まった様子で歌を歌い上げた。

終了時間が近づき、お父さんは精算のためカウンターへ。

店長は深々とお辞儀をし

「お会計は終わっています。娘さんたちから大切なものを頂きました。私たちも感謝しています」

と伝えた。

お父さんは目を細め、三姉妹を見つめながら「ありがとう」と言った。

店の外に出た家族の背中を見つめながら、店長と従業員たちは涙を流した。

その日、彼らは価値以上のものを共有し、心温まる時間を過ごした。

関連記事

ゲーミング(フリー写真)

母の愛、信じる笑顔

幼い頃、父が交通事故で亡くなり、母一人で私を育ててくれた。 我が家は裕福ではなく、私は県立高校を落ちてしまった。 私立には通うことができず、定時制高校に進学した。 …

窓辺(フリー写真)

病院の窓辺から

ある病院に、頑固一徹で世を拗ねたような患者のお婆さんが居ました。 家族から疎まれていたためでしょうか。看護師さんが優しくしようとしても、なかなか素直に聞いてくれません。 …

母(フリー写真)

母のビデオテープ

俺は小さい頃に母親を亡くしている。 それで中学生の頃は恥ずかしいほどグレた。 親父の留守中、家に金が無いかタンスの中を探していると、一本のビデオテープがあった。 俺は…

満員電車(フリー写真)

子供を大切に

父が高校生の時に、僕の祖父が死んだ。 事故だった。 あまりの唐突な出来事で我が家は途方に暮れたらしい。 そして父は高校を卒業し、地元で有名な畜産会社に入社した。 …

兄弟(フリー写真)

最強最高の兄ちゃん

両親は俺が中学2年生の時、交通事故で死んだ。 俺には4つ上の兄と、5つ下の妹が居る。 両親の死後、俺は母方の親戚に、妹は父方に引き取られて、兄は母方の祖父母と住んでいた。 …

航空自衛隊の戦闘機(フリー写真)

一生の宝物

航空自衛隊に所属する先輩から聞いた話。 航空自衛隊では覚えることが山ほどあり、毎日24時まで延灯願いを出して勉学に励んでいた。 座学(学課)でも指定の成績を取れないとパイ…

希望の空

空を見れば

私は昨日、小学4年生の子から一通の手紙を受け取りました。 「先生、僕のお母さんに元気をもらってほしいんです。プレゼントをあげたいけれど、お小遣いは329円しかありません。この値…

父と娘

強い人

母は、強い人だった。 父が前立腺癌だと判った時も、入院が決まった時も、葬式の準備の時も、私たち子どもの前で一度も泣かなかった。 だからなのか、当時私はまるで映画を観ている…

お年寄りの手(フリー写真)

おばあちゃんが注いだ愛情

こどもの発達がちょっとゆっくりで、保健センターに通っている。 そこの母子教室の最中、おばあちゃんと男の子が二人、迷い込んで来た。 「すみません、里親会の集まりの会場はここで…

レストラン

震災後のファミレスにて

阪神大震災後のことです。当時、私はあるファミレスで働いており、震災後にはバイキングメニューを無料で提供することになりました。 開店と同時に店内は満席になり、外には長い行列ができ…