兄が彫り続けた歩
山形の将棋駒工房で、脳に障害のある兄は三十年ただ歩だけを彫り続けました。父の帳面に残された一行の日付と、裏の字だけが深く彫られた三千枚の駒。守っているつもりで、…
友達のことを、大人になってから改めて思い出すことがあります。一緒に笑ったこと、支えてもらったこと、気づかずに傷つけてしまったこと。友情にまつわる感動する話——友達のありがたさを改めて感じさせてくれる短編をまとめました。
山形の将棋駒工房で、脳に障害のある兄は三十年ただ歩だけを彫り続けました。父の帳面に残された一行の日付と、裏の字だけが深く彫られた三千枚の駒。守っているつもりで、…
昭和三十四年、瀬戸内の小さな島でたった一人の医者だった私が立ち会った、忘れられない輸血の話です。注射の列でいつも最後尾に下がっていた少年が、その日だけは一番先に…
七時十六分の電車。ホームで隣に座るおじいさんは、毎朝オレンジ色の花束を抱えていました。輪ゴムを二重に留める理由も、来年の春の種をもう採り終えていた理由も、私は何…
南の島の古い桟橋で、日本の歌を口ずさむ老人と出会った。太平洋戦争のさなか、共に陣地を築いた島の若者たちが、日本兵の隊長から浴びせられた一言の暴言。裏切られた——…
隣の家の章にいと二人で作った川の生きもの図鑑は、九十三番で止まったままでした。塀一枚向こうの窓を見ないようにして過ごした二年のあと、私の手に残されたのは絵のない…
事故で逝った親友から、命日の朝に届いた、たった一通のメール。指定された公園のベンチで一人過ごした夕暮れが、僕の家族の命を救いました。終点の海を夢見た二人の友情と…
押し入れの缶の底から、夕焼けの絵葉書が出てきた。中学の冬、牛乳配達の坂の上で出会った病弱な少女と、木箱の紙きれでかわした短い便り。裏の余白には、書きかけのような…
両親が別れた小学三年の春、図書館の児童室で出会った一つ年下の明日香ちゃん。左のポケットから出てくるいちご味の飴の甘さと、そっけなく返した朝の一言を、大人になった…
余命三ヶ月を告げられた女性が、高校時代の恩師と過ごした夜明けの湖。手首を結わえて二人で漕いだ小舟の上で交わした静かな約束を描く泣ける話です。命があるということの…
泣ける話。ほとんど学校に来られない少女に毎日連絡帳を届ける係になった俺は、帳面の隅で交わした小さな文通と、指切りの約束を知ります。渡せなかった一枚の絵、果たせな…
誰より鈍臭かった俺を、厳しい学級委員の桐谷だけが静かに庇い続けてくれた泣ける話。雪国の中学、持久走でみんなに笑われた日、雪中綱引きの敗北、卒業後に届いた一通の訃…
教室の隅に隠れていた人嫌いの私を、落語研究会へ強引に連れ出した、うるさくて優しい梶井さん。亡き先輩が遺した扇子を握り、追善の高座でサゲを失くした瞬間、耳もとで聞…
新潟の燕で十五の春から洋食器を磨いていた僕は、街の洋食屋の品書きが一文字も読めませんでした。恥をかいてうつむいた僕の隣で、慎一が同じ注文をしてくれた日のこと。二…