先輩の声

公開日: 友情 | 心温まる話

サッカーボール(フリー写真)

高校の頃はあまり気の合う仲間が居なかった。

俺が勝手に避けていただけなのかもしれないが、友達も殆ど居らず、居場所などどこにも無かった。

そんな人間でも大学には入れるんだね。

そこでのサークルの話をする。

入部の切っ掛けは簡単だった。

ウザイ先輩のウザイ勧誘があまりにしつこかったのだ。

人間嫌いに陥っていた俺は、絶対に入りたくはなかった。

勧誘文句も、

「大学で新しいことしようよ!」「一緒に青春しよう!!」

などという感じで、本当に鬱陶しかった。

でもヘタレだから結局断り切れずに入部。

入部してからも先輩のウザさは変わらなかった。

と言うか苦手だった。

勘弁して欲しい。

家に帰ったらメールが届いて、カラオケなんて苦手なのに連れて行かれるし。

麻雀まで覚えさせられるし。

だらしない生活ばかりさせられる。

気付いたら、ほぼ毎日そのウザイ先輩と過ごしていた。

そんなこんなで三年目が過ぎた頃だ。

先輩が亡くなった。

交通事故だった。

『何で!?』

と思った。

その瞬間、泣き崩れた。

失って初めて解るというのは、こういうことだったんだ。

思い出してみると、その先輩は初めて俺に居場所をくれて、ウザイけどめちゃくちゃ温かい人だったと気付いた。

俺が人間関係が苦手というのを勘付いて接してくれていたんだもん。

と言うか、振り返ったら思い出の殆どに先輩が居た。

俺はかなり無愛想な感じで接していたのに、笑顔を絶やさないタフで優しい人だった。

それなのに何故…と思った。

葬儀から暫く経ち、そんな悲しみを忘れかけた頃、その先輩の(もし生きていたら)引退試合を迎えた。

殆ど防戦一方で明らかに相手ペースの試合だったから、もうだめかなと思った。

先輩の引退試合なのにな…と。

見られていたらどうしようと思った。

ふとボールを持ったら、相手と一対一の局面になった。

少し弱気になってパスを出そうとした、その時。

「行けっ!!」

という声が聞こえた。

ハッと気付いた俺は、迷わずゴールに向かって走り、ショットをゴールに叩き込んでやった。

今までの感謝の想いを全部込めて。

止められる気がしなかった。

入るに決まっていると、そう感じた。

俺と先輩、二人分のショットだもん。

泣きそうになりながら打ったショットは、ゴールに突き刺さりました。

結局試合には負けたけど、あの声は一生忘れない。

ありがとうございました。

お疲れ様でした。

失礼します。

関連記事

フライト(フリー写真)

相手を思い遣る心

国内線のCAとして、多い時で一日に 2,000人以上のお客様と接してきた私は、 『人の思いや気持ち(内面)は、日常の行動(外面)に現れる』 ことを学びました。 12…

夫婦の重ねる手(フリー写真)

妻からの初メール

不倫していた。 4年間も妻を裏切り続けていた。 ネットで出会った彼女。 最初は軽い気持ちで逢い、次第にお互いの身体に溺れて行った。 ずる賢く立ち回ったこともあり…

父親の手を握る子(フリー写真)

もし生まれ変わったら

両親が離婚して、若くして妊娠した母親にとっては、望まれた子供ではなかった。 自分が6歳の時に母は別の男性と付き合い、父親も別の女性と関係を持ったため、両親は自分の親権を争う裁判…

病院

父の願いと医者への道

高校一年生の夏休み、両親から「大事な話がある」と呼び出されたとき、父が癌で余命宣告されていることを知りました。 私たち家族は商売をしており、借金も多く、父が亡くなれば高校に通う…

婚約指輪(フリー写真)

例外の入籍手続き

彼は肺がんで入院していて、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定も入れ、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態、彼はバツイチ、そして大分…

戦後

少女の小さな勇気

第二次大戦が終わり、私は復員した日本の兵士の家族たちへの通知業務に就いていました。暑い日の出来事です。毎日、痩せ衰えた留守家族たちに彼らの愛する人々の死を伝える、とても苦しい仕事でし…

オフィス(フリー素材)

祖父の形をした幻

私の名前は中島洋二、会社員であり、幸せな家庭の父親です。 家族は妻と二人の子供、それから母親がいます。 しかし、私にとっての大切な家族の一人に、私の祖父がいます。 …

手を繋いで歩く夫婦(フリー写真)

たった一つの記憶

私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れてしまい、死の淵を彷徨いました。 私がそれを知ったのは、倒れてから5日も経ってからでした。 夫の家族が病院に駆け付け、携帯電話を見て私の…

海の父娘(フリー写真)

例え火の中でも

私の両親は小さな喫茶店を営んでいます。 私はそこの一人娘で、父は中卒で学歴はありませんが、とても真面目な人でした。 バブルが弾けて景気が悪化して来た頃、父は仕事の暇な時間に…

婚約指輪(フリー写真)

脳内フィアンセ

もう十年も前の話。 俺が京都の大学生だった頃、男二人、女二人の四人組でいつも一緒に遊んでいた。 そんな俺たちが四回生になり、めでたく全員就職先も決まった。 「もうこう…